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『千のちんこの神隠し』5

 老ちんちんが消えると同時にぼくを囲んでいた妖怪たちの興味も失せてしまったようで、みんな散り散りに去っていきました。ぼくはどこに行けばいいかわからず、周りをキョロキョロするしかありませんでした。  廊下の奥にはたくさんの小部屋の扉がついています。階段はどこだろうと探していると、誰かがぼくに話しかけてきました。 「おい、珍婆(ちんばあ)のところはこっちだぜ」  さっき、ぼくとぶつかった猫の少年でした。猫の少年はぼくと同じぐらいの背丈で顔が猫なので年齢はわかりませんが、なんとなくぼくと同い年ぐらいかなって思いました。 「珍婆って?」 「さっきの巨大ちんこだよ」  猫の少年は説明しながら、ぼくを階段のところまで連れて行ってくれました。階段に行くまで、二回ほど扉をくぐりました。多分、ぼく一人じゃ絶対にたどり着かなかったでしょう。奥まった廊下の突き当りに照明のない薄暗い階段がありました。 「ここの階段を使いな」 「ありがとう」  親切な少年にお礼を言って階段を登っていると後ろからまた呼び止められました。 「おい、珍婆の部屋に行ったら働かせてくれって言うんだ」 「え? なんで? 嫌だよ……」 「お前、金持ってねぇだろ?」 「うん」 「ここではお金がない者と働かない者は珍婆に食べられちまうのさ」  ぼくを見つめる金色の両目がぎらりと光りました。その目は獣みたいでとても冗談には思えませんでした。なにも言えないぼくに少年はさらに続けました。 「食われたくなかったら、ここで働きたいって言いな」 「わ……わかったよ……」 「じゃあな。健闘を祈るぜ」  あまり納得はしていませんでしたが、少年が怖かったのでぼくは頷くしかありませんでした。少年は満足したように出していた顔を引っ込めました。  ぼくは再び階段を上がり始めました。明かりのないその階段は上に行けば行くほどどんどん暗くなっていきます。すごく怖かったですが、タダシさんのちんちんを取り戻すために勇気を振り絞って登りました。  一番上まで登り切ると鉄製の両扉が待ち構えていました。ぼくは少し迷ったあと、ノックをしました。すると扉が重い音を立ててひとりでに開きました。中は書斎のようになっていて、壁沿いに本棚が並んでいます。ぼくが寝転んでもまだ余裕がありそうな大きな書斎机の奥に珍婆は腰掛けていました。背もたれを鳴らして深く腰掛けた珍婆はぼくと向かい合いました。 「よく来たね」  珍婆はちんこなので顔がありません。だからどんな表情かは分からないのですが、言葉の割に歓迎されていないことはわかりました。ぼくはずっと疑問に思っていたことをぶつけました。 「あの……ここって一体なんなんですか?」 「ご挨拶だね。ここは捨てられたちんこが集まる最後の楽園さ。マスターにいらないって言われたアンドロイドは消えるしかない。それはちんこだって同じさ」 「……じゃあ、珍婆も?」  珍婆は答えませんでした。その代わり、ぼくに質問を返してきます。 「あんた、ここになにしに来たのさ? ここは人間の来るところじゃないよ」 「あの、ぼく……タダシさんのちんちんを探しに……」 「諦めな。ここに来たちんこは皆絶望してる。連れ戻すなんて無理だよ」  はっきりと言い切られて、ぼくはショックでとっさに返事ができませんでした。

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