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『千のちんこの神隠し』8

 『お子様ちんぽ』としての雑用は思ってたより大変でした。  お風呂屋さんと言っても銭湯とは違って、お客さん一人ひとりが個室になっていました。布団とお風呂が一緒になってる部屋にミィのような召使いとちんちんが二人で部屋に入っていきます。  中でえっちなことをしているのはわかりました。最初はびっくりしたけど、すぐに慣れました。  終わった後の部屋を掃除します。臭くて大変だったけど、口で息をして掃除したりして頑張りました。  すれ違うちんちんやこっそり部屋を覗いてお客の中にタダシさんのちんちんが混じっていないか探しましたが、それらしいちんちんは見つかりませんでした。  たまに喋るちんちんが「君も混じっていきなさい」とか言われたりしたけれど、そういう時は全力で逃げました。  最初は元気いっぱいのミィも閉店間際になってくると顔が真っ赤になってへろへろになっています。酔っ払ったみたいにろれつが回らなくて、上手く立てたないことも多かったです。だいたいお風呂も自分で入れなかったりするので手伝ってあげたり、玩具が中に入ったままだったりするのを取ってあげたりしました。   そして閉店後はお店の前を箒で掃除します。街の灯りが消える代わりに夜空の端が白くなって、夜が終わりを告げます。  ある日、いつものように掃除をしていると玄関前にかかった大きな橋を掃除していると、縄で編まれたはしごが下りてきました。はしごは夜と朝の間の空から垂れていました。その隙間から、新宿の公園で見た植え込みの枝が見えました。  無意識に手が伸びて、縄を引っ張ってみました。縄で出来たはしごは少し引いたぐらいではびくともしないぐらいしっかりしていました。  周りには誰もいません。  このままこのはしごを登れば元の世界に戻れるかも……。  そう思ったけど、ぼくは手を離して首を横に振りました。 (だめだよ、タダシさんのちんちんを連れて帰るって決めたんだ!)  本当はもう少し掃除が残っていたけれど、そこにいるとはしごに登ってしまいそうだったので、ぼくは逃げるようにお風呂屋さんにに帰っていきました。  次の日から、毎日橋の上にはしごが現れました。  最初ははしごを見るたびに帰ろうかと悩んでいましたが、一週間も経てばただの風景になりました。視界に入ってこないように後ろ向きで橋を掃除して、戻るときもそっぽを向いて帰ってきました。  ちょうど玄関ののれんをくぐったとき、珍婆がぼくを待ち構えていました。ぼくはびっくりして箒を落としました。何度見てもそのデカさは怖いです。 「なんだい、あんたまだいたのかい」  言葉を失っているぼくを珍婆は玄関の縁から見下ろしてきます。怒られるのかなと思って黙っていると珍婆はため息交じりに言いました。 「逃げ出せばいいものを。チャンスはあっただろう」  ぼくは、あっと声を上げそうになりました。  外のはしごは珍婆の仕業だったのです。ぼくをこの世界から追い出そうとしているのだと思いました。両手で箒を握りしめると珍婆をにらみました。 「タダシさんのちんちんが見つかるまで、ぼくは帰らないもん」 「フン……可愛くないガキだね……」  ぼくは珍婆を無視して箒を片付けると、靴を脱いで中に入りました。狭い廊下に珍婆が立ちはだかり、ちっともどいてくれません。仕方がないので玉を押しのけて無理やり通ろうとしました。 「でもまあ、あんただってすぐに帰りたくなるさ。タダシとかいうアンドロイドの今の姿を見たら……ね」 「どういうこと? 珍婆はタダシさんを知ってるの?」  ぼくは壁と玉に挟まれたまま尋ねました。 「所詮、男のアンドロイドは女の代用品さ。ホンモノがいれば、あたしたちは用済みなのさ」 「ダイヨーヒン? どういうこと? うわぁっ」  意味がわからなくて聞き返しましたが、珍婆は答えませんでした。珍婆が歩きだすと壁に挟まっていたぼくは床に転げ落ちました。  珍婆が玄関から出ていきます。  朝日に照らされてシミだらけの巨大なちんちんが揺れています。  なんだか悲しそうにしぼんでいるように見えました。  その姿は枯れたおじいちゃんのちんちんそのものでした。

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