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『千のちんこの神隠し』10
「こら、勝手に入るな!」
誰かが注意したけれど、ぼくは扉を開きました。鍵はかかっていませんでした。でも、ぼくが入った瞬間、扉は大きな音を立てて閉まり、勝手に鍵が掛かりました。窓の外から心配そうにぼくを見ているミィと目が合いましたが、ぼくらを遮るように障子がひとりでに動いて閉まってしまいました。
お風呂とベッドのある部屋にぼくとタダシさんと二人きり。騒がしい廊下が嘘みたいに静かでした。タダシさんはゆっくりと立ち上がりました。よく見たらTシャツもズボンもタダシさんが普段着ているのと同じでした。身体が小さくなってぶかぶかになっていたので気づきませんでした。
「本当に……、タダシさんなんだよね?」
ぼくの疑問にタダシさんは笑顔で頷いてくれました。こんな綺麗なアンドロイドが他にいるわけありません。
「りゅうくん、迎えに来ましたよ」
両手を広げるタダシさんにぼくは条件反射で抱きつきました。いつも力強くて弾力があるタダシさんが今日はなんだかマシュマロみたいにふわふわでした。
不思議に思って見上げたぼくをタダシさんは身体を押し付けるように抱きしめてきます。
「わかりますか? 私、女になったんですよ」
牛みたいに垂れたおっぱいがぼくの身体を包みます。確かに柔らかくて気持ちよかったけれど、ぼくは男のタダシさんの芯のある身体を思い出していました。
「……りゅうくんと結婚だって出来ますよ」
「けっ!?」
結婚という言葉にぼくは顔が真っ赤になりました。
「もう私にはちんちんは必要ないんです。だから、もう帰りましょう。お母さんも待ってますよ」
たしかにぼくは大人になったらタダシさんと結婚したいです。
お母さんに心配かけて悪いなぁとも思います。だから、ぼくは女になったタダシさんの手を取って、一緒に帰るのが良いことがきっと『いいこと』なんだろうなって思います。
だけど……だけど、目をつぶると浮かぶのはぼくに麦茶を運んでくれる男のタダシさんと、悲しそうに逃げていったちんちんの姿でした。
――私は、ちんちんなんていりません。
ここに来る前、タダシさんはぼくにそう言いました。
(タダシさんは……タダシさんは、本当にちんちんがいらないんだ……)
動こうとしないぼくをタダシさんは不思議そうに首をかしげました。
「……りゅうくん?」
「嫌だよ……」
絞り出した声はかすれていました。せっかくタダシさんに会えたっていうのに、ぼくは悲しくて仕方ありません。
「どうしてそんな風になっちゃったの? ぼく……ぼく……」
消え入りそうな声を区切るとぼくは唇を噛みました。両手を握りしめると目の前の女の正さんに向かって叫びました。
「ぼくはちんちんがついてるタダシさんの方が好きだ! どうして女の人になんてなっちゃったんだよ、ぼくはそのままのタダシさんが好きだったのに!」
その瞬間、目の前のタダシさんのおっぱいが風船みたいに大きく膨れ上がりました。おっぱいだけじゃありません。顔も体もまんまるに膨らんで、パァンと音を立てて破裂しました。中からカラフルなちり紙が弾け飛び、それと一緒に巨大なちんちんが現れました。
ぼくの体より大きなちんちんには見覚えがあります。……珍婆です。
「え……、え……?」
どこを見回してもさっきまでいたはずのタダシさんがいません。ぼくは何度も瞬きして目の前の珍婆を呆然と眺めました。しわくちゃのちんちんが、不機嫌そうに吐き捨てました。
「全く……、あんたみたいなしつこいガキは初めてだよ」
「え……どういう……」
意味なの? と聞こうとする前に部屋の扉が勢いよく開きました。外から大量のちんちんと一緒にミィが入ってきます。ミィはぼくの元まで駆け寄ってくると嬉しそうに手を取りました。
「お前、やったな! 珍婆の誘惑に勝ったんだよ」
「どういうこと?」
「珍婆のやつ、お前の大事な人に化けて、体よくお前を追い出そうとしたんだ」
「じゃあさっきのタダシさんは?」
「珍婆の化けた姿だよ」
「……タダシさんは女の人になってないの?」
ミィと珍婆が同時に頷きました。その途端、ぼくはほっとして体の力が抜けてしまいました。
「良かったぁ〜〜」
またあのタダシさんに会えると思うと胸の奥があったかくなります。へなへなと座り込んでいるとミィがぼくの両腕を引っ張ってくれました。
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