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『千のちんこの神隠し』11

「珍婆が手出すなって言うから、みんなでお前のこと見守ってたんだぜ」  ミィは閉まっていたふすまを開くと見物人らしいちんちんがびっしりと張り付いていました。さすがにこんなにいたら気持ち悪いなぁと思いました。  でもその中のとあるちんちんを見つけた瞬間、ぼくの時間は止まりました。  固まるぼくの隣でミィが珍婆に迫っています。 「ほーら、珍婆。賭けはオレの勝ちだぜ。約束通りタダシってやつのちんちん出してやれよ」 「勝手に連れていけばいいさ。まあ、見つけ出すのにどれだけ時間がかかるか知らないが」  ぼくには二人の会話が全然聞こえませんでした。ぼくの目はそれに釘付けになって、吸い寄せられるようにしてちんちんたちが張り付いた窓に向かいました。そしてしゃがみ込むと窓の縁から隠れるようにして半分体を出したちんちんに視線を合わせました。 「ここにいたんだ」  自信なさそうにしおれているのは、紛れもなくタダシさんのちんちんでした。ちんちんはぼくが見つけるとびっくりしたみたいに頭を上げました。ぼくはガラス越しにちんちんに触れました。 「もう会えないかと思ったよ」  懐かしくて嬉しいのになんだか泣きそうになりました。それをごまかそうと笑顔を作ると、ちんちんはブワッと広がって先っぽから黄色い液体を垂れ流し始めました。  周りのちんちんがびっくりして一斉に離れました。どう見てもおしっこ漏らしてるようにしか見えませんでしたが、ぼくには泣いているように見えました。ちんちんは泣き止むと、涙を振り払うようにして棒を左右に振りました。黄色い飛沫が散って、周りのちんちんたちが逃げ出しました。  ちんちんは窓から離れると、扉からぼくに向かって全力で走ってきました。ぼくは一瞬迷いましたが、勢いに負けて飛び込んでくるちんちんをそのまま抱きしめました。  涙かと思った液体は、抱きしめるとめちゃくちゃおしっこ臭かったです。  でも、それは紛れもないタダシさんのちんちんでした。  ぼくはやっと見つけることができて、本当に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。 「……目ざとい子だねぇ」  抱き合うぼくらの背後から、珍婆の悔しそうな声が聞こえてきました。 「だってぼく、タダシさんのことばっかり考えてたもん。すぐわかるよ」  珍婆は何も言いませんでした。ぼくは腕の中のちんちんを床に降ろしました。 「帰ろう。きっとタダシさんが待ってるよ」  ちんちんは頷くとぼくらは並んで歩きはじめました。扉の手前でミィが寂しそうな顔で立っています。 「行くのか?」 「うん。ミィ、ありがとう」 「……ああ、元気でな」  背丈が同じぼくたちはギュッと短く抱き合いました。  ミィがいたから、ぼくはここまで頑張ってこれました。別れるのは寂しいけれど、ここで大事な友だちができたことは絶対に忘れません。  そして、もう一人……。 「珍婆」  寂しそうにたたずむ巨大なちんちんにぼくは額が膝に付くほど深くおじぎをしました。 「お世話になりました」 「二度と来るんじゃないよ」  不機嫌そうなその言葉も、なぜだかぼくには温かく聞こえました。扉を潜ろうとしたその時、再びしゃがれた声がぼくを呼び止めました。 「りゅうじ」  珍婆がぼくの名前を呼んだことにびっくりしました。 「次、そのちんちんを悲しませたら、二度と返さないよ」  ぼくは頷くと、珍婆は「ふふっ」と言いました。ぼくが初めて見た珍婆の笑顔でした。  廊下を抜けて、玄関から出ていきます。向かうはいつも空からぶら下がるはしごです。  なんとなく振り返っちゃ駄目だと思って、前だけを見て歩きました。ちんちんがすぐ後ろについてくるのが気配でわかります。  空から垂れるはしごは、橋の上にありました。ぼくはちんちんを肩に乗せて、登り始めました。ある程度まで登ったところで、見下ろすとお風呂屋さんの玄関前で大勢の人たちがぼくらを見守っていました。  ミィも珍婆もその中にいました。ぼくはみんなに向かって大きく手を振りました。 「さようなら! みんな元気でね」

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