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第5話
薄暗い雲はすっかり日が暮れて暗くなっていた。しまいには雪がちらちら降っていて地面については消えた。
あの後、時間があれば、ご飯食べようと訊ねられこの日のために仕事も片付けて出てきた為に時間はたっぷりあり昌樹の見知りのお店に入り、夕食を共にした。21時頃店を出て外気に触れると身体が震える。
「通りで寒いわけだ」
一真はそうですねと言い、手を合わせて息を吹けかける。
「そうだ。これを一真くんにあげるよ」
鞄から小さめの包装した袋を取り出して目の前に差し出され咄嗟に受け取る。
不思議に思い昌樹を見ると少し頬が赤い気がしたのは照れているのかそれとも寒さなのせいなのかわからなくて見つめていると先程まで合っていた目は逸らされる。
「ごめんなさい、男に見つめられの嫌ですよね。これ、俺が貰っていいの?」
「いやいや、一真くんが悪いわけじゃないから。こっちの問題。大したものじゃないんだけど今日のお礼」
今日よお礼ってただ付き添っただけなんだけどなと思いだからプレゼントなんて滅多にないから嬉しさがある。
一目惚れの恋を拗らせ続けて恋人すら出来ないまま過ごした人生で友達にもそんなに恵まれずプレゼントする上げたり貰う相手すらいなかったなんて寂しい人生だったのかと心の中で自嘲する。
「嬉しいです、ありがとうございます。ここじゃあ、あれなんで、帰って開けますね」
「ん。これ一緒選んでくれてこちらこそありがとう。あいつが喜んでくれるのが目に見えるよ」
気になるのは昌樹が今日選んだピアスをプレゼントする相手のことだった。まあ女性もののアクセサリーなのだから恋人に対してなのだろうけど、それを関係の無い俺に選ばしたのかだった。本当にいいのだろうか。
共にご飯食べているときでさえ、これだけは聞けなくて喉に詰まった状態でいた。
悩んで無言でいたのか頭に伸びる手に気づかなかった。
「はは、途中からそんな感じだね。今日楽しくなかったかな?もう遅いから帰ろうか」
「あ、いや!楽しかったです!また誘ってください。いえ、絶対行きましょう!」
いつもの癖で自分の世界に入っていて、一瞬目の前の昌樹のことを忘れていた。何か考え事だったりあると周りのことは気にせずに集中してしまう癖がある。
だから苦笑いしている昌樹を見て、やってしまったと反省した。
「ころころ表情変わって可愛いね、一真くんは」
男に可愛いってなんだよ、と思いつつもその言葉とふにゃっと笑う顔に胸がときめくような感覚と高校生の時のことが蘇りドキドキが増す。懐かしい記憶と共に失恋したという事実が駆け巡り気持ちが下がるが、今は考えるなと抑える。だけど、昌樹の顔を見るとどうしても明里先輩のことを思い出してしまう。どこか似てる部分がある。
「昌樹さんて、兄弟います?例えば、妹とか」
「え、あーまあ、いるかな?一真くんは一人っ子だったよね」
はっきりしない返事に不思議に思っていると1度も言ったことがないのに知っていることが最も不思議だった。
「そうですけど、言ったことありましたっけ?」
昌樹はハッとした顔を一瞬したが、直ぐに微笑んでそんな気がするなって思ったと言う。
「俺、一人っ子なのもあってみんなに弟みたいだって可愛がられてた事多くて、それは嬉しいんですけど、でも好きな人にはそう思われてたのは辛い時期がありました」
1ヶ月前、好きな人に言われた言葉、前からそう思われていたのも解っていた。けど知らないフリしてそれをいいことに近くに入れることが嬉しかったからその気持ちは変わらない。
地面に向けていた目線を昌樹に向けた。
「今は吹っ切れたってはっきり言えないけど、気持ちは楽になりました。昌樹さんのおかげです」
「ううん、俺は何もしてないよ。一真くんの心が強くなったんだ。これからも頑張って」
(昌樹さんに言われると自信つくのはなんでだろう)
あっという間に最寄り駅について別れの挨拶をする。今日一日のことを思い出す。ずっと笑顔で気を使ってくれる昌樹の顔を浮かび、やはり接客をしているだけあるなと思う。自分にはそんな社交的なものは持ち合わせてないから憧れである。
地面には白く積もった雪に新しく跡をつけるのをうきうきする程、充実した日になった。
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