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第6話
「一真くんいらっしゃい!好きなところ座って」
「・・・こんにちは」
店に入る一真の姿を見ると昌樹は綺麗な笑顔を迎えてくれる。それが眩しくて目を逸らしてしまう。
「あ、いや、今日はマフラーのお返しで来ただけなので」
先日、借りていたマフラーを返し忘れていたのを思い出し出先の帰りに寄ることにしたのだ。
「忘れてた。わざわざありがとう」
(眩しい。笑顔が眩しい。)
会う度にこの人のことが気になるのは自分が惚れやすいからなのかドキドキしてしまう。
男の人、にこんなことを思ってしまうのはいけない。失恋したばかりで直ぐに次になんて軽いなって思う。
「一真くん?顔赤いけど体調良くないかな?」
そっと額に手が伸びてきてハッとする。
「熱はないね」
大丈夫ですと1歩下がる。不自然すぎる行動に一真すら思い昌樹の顔を見る。
昌樹は変わらず心配そうな顔はしているが特に変わった様子はなかった。
「もう帰るのでまた」
(心配された。かっこいい)
募る気持ちはどうしようも出来ない。深くため息を吐いて落ち着かせる。
けど自宅までの道のりは店から20分かかるが今日は足並みが軽く早い気がする。気持ちの持ちようでこうも違うのは凄いなと関心する。
その日の夜、昌樹にメールすることにした。いつも慣れているタイピングが緊張で震えて文字が打てない。目を閉じた打ったのではないかと言うほど誤字ばっかりの文字が表示されている。
〔こん、しゅ土曜日てまにらへんか〕
勇気無さすぎて何度目かのため息をついてメッセージを消すしてベッドに倒れ込む。
「うーんこんなに難しいことだったけ・・・」
恋愛なんてしてこなかったから何をしていいのかわからなくて困る。
明里先輩の時はどうしてたのかと思い出そうにも記憶が薄くなってきて、そこで確信してしまう。
「やっぱりそうだよ、昌樹さんのことが好きになっちゃったんだよな〜」
誰に聞こえないことをいい事に大きい声を上げて騒いでいると、携帯が鳴り画面を覗くと昌樹さんと表示されるのを見てこんなにも偶然があるのかと名前を眺めていた。
「じゃない!でなきゃ!も、もしもし」
上擦った声で出てしまい電話越しの声がクスッと笑う声がした。
「もしもし、一真くん。今何かしてたかな?」
「いえ!ど、どうしましか?」
昌樹は今日の様子を気になって電話してきたという。ちょっとだけなのに心配してくれる昌樹に更に好意が増す。
「仕事で疲れていただけなので今は大丈夫ですよ、心配ありがとうございます」
昌樹には見えていたいのに深く頭を下げる。
「そっか、良かった。まあこれは電話する口実なんだけど・・・今週土日のどちらか出かけない?」
「は、はい!是非!」
土曜日に出かける約束をして電話を切って高ぶる感情を押さえられず子供のようにベッドの上で伸び跳ねる。
まさか昌樹さんも同じことを思っていたことがとても嬉しかった。
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