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第3話
「バアル、卵割れたか?」
「割れたけど、殻も粉々になった……」
「これで取ればいい。しっかり泡立てろよ」
「……」
「バアル?」
「……なんでもない」
バアルは悪戦苦闘しながらトゥルントゥルンと逃げ惑う砕けた殻の欠片をすべて拾い上げ、泡立器を手に取った。
カンカンと金属同士が触れ合う固い音が響く。
その隣では、トールが白い粉を巻い上げながら小麦粉をふるっていた。
『一緒にクリスマスケーキを作ろう』
結局一睡もできないままトールの元を訪れたバアルに向けられたのは、そのひと言と豪快な笑顔だった。
うまく働かない頭で反芻しているうちに、あれよあれよとエプロンを着せられ、三角巾を巻かれ、キッチンに立たされ、気がついたら卵を握りしめていた。
そしてもう半時間も、こうして慣れないケーキ作りに取り組んでいる。
「バアル、手が止まってるぞ」
「……分かってるよ」
がむしゃらに泡立て器を動かすと、普段は使わない腕の筋肉がミシミシと軋んだ。
俺の睡眠を返せ、とバアルは喉の奥で唸る。
まさかトールのやりたいことがこんなことだったなんて。
バアルは、少しでもそういうことを期待してしまっていた自分が心から恥ずかしかった。
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