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第4話 出会い④

 午後からの研修は、予め言われていたように実践的な研修内容となった。  午前の内に学んだ料飲部で使用するプレートやシルバー類に実際に触れて、サービスの基本となるトレイや皿の持ち方を実践した。  転職を含めたこういった業種に就くことが初めての新人組と復職組がペアを組み、マンツーマンの指導を受ける。 「あー、柴くん。トレイもうちょっと前側を高く。それだとバランス悪いから前に倒れる。 背筋は伸ばして、視線を前に。手元ばかり見てるとふらつくから」 「はい」  竹内の指導はどちらかと言えば感覚的ではあった。理屈で教えるというより見て覚えろとでもいうように何度も手本を見せてくれる。暁人もどちらかといえば感覚的に物事を掴むタイプであったため、その指導はとても分かりやすいものだった。 「ああ、いいね。じゃあ、グラスに実際水入れて運んでみようか」  頭で理解することと実際にやってみることは大きく違う。思ったようにいかないこともその感覚を何度も身体に叩き込むように練習を繰り返した。 「柴くん、結構筋いいね! 立ち姿も綺麗だし、安定感もあるよ。このぶんならじきに慣れそうだ」  しばらくの間ペアでの練習を繰り返し、新人組は最終的に一人一人葉山のチェックを受けたが、暁人は一度でそれをパスすることができた。 「柴嵜、もう少しだけ顎引け。そのほうが綺麗だ」 「はい」  午後はひたすら実技研修に明け暮れた。新人組の中でも飲食業でバイト経験のある者とまったくの初心者ではその技術の差は歴然であったが、こればかりは経験を積んで慣れていくしかない。連日の実技研修の甲斐もあり、暁人を含む新人組もそれぞれにその成果を上げて行った。 「じゃあ、今日はここまで。お疲れ様、また明日」  という葉山の言葉に皆が一斉に帰り支度を始める。研修が始まってすでに一週間、部署内の社員同士もだいぶ打ち解けて来ていた。 「なー、柴くん。腹減んない? このあと飯でもどう?」 「……すみません。今日もこれからちょっと予定あって」  こんなふうに竹内に食事に誘われるのは実は二度目。そしてそれを断るのも二度目。 「え、マジか。柴くん、誘うタイミング難しいなぁ」 「すみません……ほんと」  面倒見のいい竹内は確かに暁人にとって頼りになる先輩であるし、嫌いなわけでもない。彼の誘いが嬉しくないわけではないが、やはり職場の人間と深く関わることを避けたいと思うのは過去の経験が大きく影響している。 「じゃあ。しゃあない、葉山さんでも誘うかー」  竹内が言った背後で「俺はまた柴嵜の代打かよ」とそれに葉山が笑いながら突っ込んだ。 「だって、柴くん用があるって言うしさ。じゃあ、また今度ね」 「用があるなら仕方ないだろ。また明日な、柴」 「お疲れ様でした」  竹内と葉山はそのままどこに行くだの、何を食うだの話しながらいつの間にか暁人を追い越して二人は賑やかに従業員の通用口へと消えて行った。

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