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第11話 持つべきではない感情①
4 持つべきではない感情
新緑の眩しい季節を過ぎ、ぐずぐずとした天気が続くようになって迎えた梅雨本番。
今日も朝から雨が降り続いている。
「アメジストのスタンバイ終わりました」
暁人が中宴会場のスタンバイを終え、それを報告しにパントリーに行くと、葉山が「ああ、サンキュ」と返事をした。あれから数カ月、宴会課の仕事にも少し慣れつつある。この時期はいわゆる閑散期で宴会予約も比較的少ない時期だ。
「あの、竹内さんたちは?」
「パールに居ると思うが、あっちも講演会の準備だけだしすぐ戻るだろ。今日ひまだし、終わったら上がりでいいから、待ってる間皆のぶんのコーヒーでも淹れてやれ」
「あ……はい」
そう返事をすると、暁人はコーヒーマシンに豆をセットしその準備をした。暁人が準備をしているのを横目で見ながら、葉山が窓の外に視線を移した。
「しっかし、よく降るな、今日は」
「梅雨時期ですからね」
「このあと竹内たちと飯行くけど、柴はどうする?」
「あ……俺は」
「はは。相変わらずつれないな、おまえは。まぁ、いいけど」
ここで働くようになって二カ月以上が過ぎ、暁人が以前勤めていた職場とは違いスタッフ同士の仲がいいというのも分かって来た。気の合う同士で仕事のあとに食事や飲みに行くものも多く、そういったものにもちろん声を掛けて貰えはするのだが、暁人は依然そうった集まりにあまり顔を出すことはない。
かといって付き合いが悪いなどと陰で言われることも、誘いがなくなることもないのはここにいる葉山の影響が大きいと言える。
「プライベートは自由だろ」と無理に参加を促すこともなく、自然とそういう空気を作ってくれるため、気分がのらないとか、見たいテレビがあるとか些細な理由で参加しないものも普通に多く、それが自然で誰も何も言わない。
以前の職場では、そういった付き合いは半ば強制的だった。典型的縦社会と言うものが確立されてある程度立場やパワーを握る者の誘いは断れなかった。もちろん、そういう付き合いが苦手なものも多かったが、陰で文句を言ってはいても、結局は上の立場の者に逆らうことは許されなかった。
そういった意味では、今の職場は暁人にとってとても自由でありがたい環境だ。
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