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第31話 感情を抑える方法①
8 感情を抑える方法
「あの、葉山さん。これ……ありがとうございました」
夕礼を終えて皆がそれぞれの会場の準備に入った頃、暁人は隙を見計らって一人パントリーに残っていた葉山に声掛け、預かっていた部屋の鍵を差し出した。
「ああ、戸締りありがとな」
葉山が思い出したように、暁人が渡した鍵を受け取った。
「いえ。こちらこそ泊めてもらって……」
礼を言おうとしたとき、彼が「あー! 葉山さんいたいた! 今ちょっといいですか」とパントリーに顔を出した予約課の課長に呼ばれた。
「悪い、呼ばれたわ。鍵大事に持っててくれてありがとな。また飯行こうぜ」
そう言って暁人の髪をかき混ぜてからパントリーを出て行った。
──まただ。ほんとあの人は。
いい加減慣れろと思うのに、葉山に髪を撫でられるたびになんともいえない気持ちが湧き上がる。
「あれ? 柴くん、まだここにいたんだ? バーカウンターのドリンク準備頼んでいい」
「あ、はい」
声を掛けられて振り返ると、竹内が何かに気付いたように暁人に近づいて小首を傾げながらそっと額に手のひらをあてた。
「柴くん、どうかした? 顔赤いけど。熱でもある?」
「えっ? いや……大丈夫です。すみません、ドリンクすぐ準備します」
そう返事をして暁人は慌てて顔を隠すように洗い場の手前にある業務用冷蔵庫へ向かった。冷蔵庫の中で台車にドリンクを積み込みながら、たったあれだけのことで顔に出てしまうくらい葉山を意識していることを自覚した。
──どうしてだろう。
葉山は見た目だけでいえば、暁人の好みのタイプとは程遠い。背は自分より高いのが理想だが、彼のような体育会系ではなくインテリタイプが好みだ。顔つきだってもっとシャープな感じが好みだし、全然好みじゃない──なのに。
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