32 / 66

第32話 感情を抑える方法②

 仕事を終えた暁人は、同僚たちを別れると久しぶりに登録してあるサイトで夜の相手を探した。明日は昼出勤だし、いまから相手を探してホテルに向かっても、翌朝ゆっくりできる。  スマホの画面の中の掲示板に並ぶいくつものアイコンを見比べ、顔写真表示の相手を選んでメッセージを送った。アイコンの写真が本人のものとは限らないが、以前動物のアイコンの相手を選んで酷い目にあったことを思い出したからだ。  メッセージを送ってから数分で相手から返事が来た。隣町の駅前に立つゆるキャラのモニュメントの前で一時間後にその相手と会うことになった。 「きみが、豆柴くん?」  モニュメントの前で暁人に声を掛けて来たのは、サイトで見たアイコンの写真と同じ眼鏡を掛けた知的そうなスーツ姿の男性だった。豆柴とは、暁人が使っているサイト内の名前だ。 「はい。あなたが、マナトさんですか?」 「そう。アイコンのまんまでしょ?」  サラリーマンらしくビジネスバッグを提げ、柔らかく微笑んだ男性を好ましく思った。  そのまま男性に促されるままホテルに向かい、交代でシャワーを浴びた。お互い目的がはっきりしているため、その辺りはとてもスムーズだ。  毎回、初めての相手に緊張しないわけではない。けれど、相手が自分のことを知らない、また自分も相手のことを知らない。一夜限りのモノだと分かっているからこそ、どんな自分も曝け出してしまえるのが暁人にとってはある意味心地いい。  男は見かけによらず、情熱的なセックスを好んだ。暁人は一晩に何度も何度もイカされ、身体がどうにかなってしまうのではないかという強い快楽に恐怖を覚えたくらいだ。けれど、何度も与えられる快楽で頭が真っ白になることは、この夜の暁人を救った。  そもそも、身体がどうこうというより、抗おうとしても暁人の心に入り込んでくる葉山を思考から追い出すために誰かに滅茶苦茶にされたかった。  そういった意味では、見た目においてもセックスの嗜好においても、今夜の相手は彼で間違いはなかった。  空が白み始めるまで一晩中抱き合って、朝早くに男は個人的な連絡先とホテル代を置いて帰って行き、暁人はチェックアウトの時間ギリギリまで眠ってからホテルを出た。  身体に物凄い倦怠感が残っていたが、ほんの少し気分が晴れた。男と抱き合っている間は余計なことを考える隙もなかった。  忘れることは得意なはずだ。これまでだって、ずっとそうしてきたのだから──。

ともだちにシェアしよう!