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第37話 裏腹な想い②
葉山と関わり合いにならないよう過ごしていきたいと思っているのに、どうして自然と関わり合いができてしまうのだろうか。同じ部署であるうえにシフトの管理は葉山が行っている為、暁人の休みまでもしっかりと把握されている。
たまたま葉山と休みが重なった翌週の夕方、半ば強制的に彼に予定を押えられてしまった。
「で? 柴、どういうのがいいんだよ? 今までみたいなのか? それともワイヤレス?」
「あ……いや」
最寄り駅近くの大型家電量販店連れて来られて今に至る。親しい友人も少なく、基本こういった場所にも一人で来ることが多い暁人にとって誰かと一緒ということ自体落ち着かない。その相手が職場の上司でもある葉山とあれば尚更だ。
「遠慮せずに好きなの選べよ」
「はぁ……」
遠慮せずにと言われても、種類も豊富な上に値段もピンからキリまで。強いこだわりもなく、ただ音楽が聴ければいいという程度の関心しかないだけに余計に迷ってしまう。
「あ。これは? デザインカッコよくね? やっぱ、あれか? ワイヤレスのほうが楽なんかな」
葉山が手近にあった商品を見比べながら訊ねた。
「……どうですかね。まぁ、コードが絡まるストレスはないんで使いやすいのかもですね。最近、街でもワイヤレス使ってる人多い気がします」
「じゃ、柴もそうすりゃいいじゃん。そこ決まるだけでも絞れてくるだろ?」
的確なアドバイスをくれるあたりは仕事中の彼と重なるところがある。言われたように形体を絞っただけで選択の幅が絞れてくるのは確かだった。
「ネックバンド型? ああ首に掛ける感じな? うわ、こんな小さいのもあんだなー」
「確かにいろいろある……」
あれこれと商品を見比べながらも気に入ったものをいくつか絞って悩んでいると、葉山が近くにいた店員を掴まえてそれぞれの機能や特性まで確認してくれた。
「じゃあ、柴。これにしろ」
「え?」
「なんだよ、不満か?」
「不満なんてないですけど……」
最後に残った二つで暁人が悩んでいたのは、デザインもカッコよく機能や使い勝手も申し分なかったが値段に少し差があった。葉山が選んだのは暁人が一番気になっていた値が張るほうのイヤホンだった。
「葉山さん、これ値段が……」
「はは。どっちもたいして変わんねぇだろ。それに、こっちのほうがおまえに似合うよ」
そう言って笑うと、商品を手に取りレジに向かって歩き出した。勘のいい彼のことだ。きっと暁人が気に入っていたほうを分かっていたのだろう。
あっという間に支払いを終えて戻って来た葉山が、商品の入った小さな紙袋を暁人に差し出した。
「ほら。大事に使えよ。──って、おまえの踏んで壊した俺が言うなって?」
冗談交じりの葉山の言葉に暁人が思わず笑うと、彼が嬉しそうに白い歯を見せた。
「ありがとうございます。ていうか、すいません。あんな安物の弁償にこんな……」
「もうそれ言うのナシな。いいんだよ、俺がしたかったんだから」
笑った葉山が腕時計で時間を確認したのを見て、暁人もスマホで時間を見た。まだ明るいように感じていたがすでに七時を回っていた。真夏の夕刻は外に出ただけでその熱気で全身に汗が滲む。
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