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第62話 繋いだ手のその先に④

「柴は? 仕事終わってそのまま帰ったのか?」 「あ、いえ。竹内さんに誘われて飯だけ」 「おまえ、最近なにげに竹内と仲いいよな」 「それは……葉山さんがもっと同僚信じてもいいんじゃないかって。それに、俺、竹内さんのことはすごく好きなんです」  竹内は、入社当時から葉山以上に暁人を気に掛けてくれていた。不安で堪らなかった入社式で初めて暁人に声を掛けてくれたのも竹内だった。  宴会課に配属されて、皆の輪に暁人を引き入れてくれたのも、仕事の基礎を叩き込んでくれたのも彼だし、仕事の楽しみ方を気づかせてくれたのも彼だった。暁人にとっては、葉山以上に身近で信頼のおける人物である。 「……まぁ、仲いいのはいいことだけどな」  葉山にしては、少し引っ掛かったような響きを持つ言い方が気になった。 「けど、ってなんですか」  暁人が訊ねると、葉山が珍しくバツが悪そうに表情を歪めながら暁人から目を逸らし、明後日の方向を見た。 「なんですか。気になるんですけど」 「べつに……言葉通りの意味だよ。ただ、それはそれでちょっと面白くないとか思う自分もいるだけで」 「どういう意味ですか」  暁人がさらに追及すると、葉山がますますバツが悪そうな顔をしてから観念したように大きく息を吐いた。 「分かれよ。嫉妬するのは、おまえだけじゃねぇってこと」 「え? 嫉妬……?」  暁人は驚きのあまり、目をぱちぱちと瞬かせながら葉山を見つめた。 「嘘だ!」 「嘘なわけあるか。おまえが竹内にばっかり笑い掛けてんの見てイラッとくるくらいには嫉妬してるわ。職場じゃ俺にだけめちゃくちゃ塩対応だろ、おまえ」 「それはっ……」  職場では自分たちの関係を秘密にしていることもあり、公私を区別するという意味でこれまでとあまり態度を変えないようにと敢えてそうしているだけだ。もちろん、互いに同意の上での決め事だ。  元々、竹内を信頼してもいいと助言をくれたのは葉山のほうだった。その葉山が、自分と竹内の関係に嫉妬していたなんて思いもよらないことだった。 「まー、分かってるよ。仕方ないのは」  そう言った葉山が小さく息を吐いてから、暁人の肩を抱き寄せた。  世間一般的に、自分たちの関係が万人に受け入れられるものではないことは分かっている。自分たちがよくても、それをよしとしない人間が存在することも分かった上で、自分たち二人の関係を公表しないと決めている。それは、円滑な人間関係を守る為でもある。 「──けど、いつか竹内にも、皆にも。言える日が来るといいと、思ってるよ」  暁人の肩を抱いたまま葉山が言った。彼の言葉が嬉しくて、暁人が何も言わずにそっと彼の肩に頭を預ると葉山の温かな手がそれを受け止めた。

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