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つぐみ鳥は夜に飛ぶ(1)
特にイベントはないはずなのに偶然忙しくなる日というものはあるものだ。
その日、一課は全員がばたばたしていた。
円が風邪を引いて休んだところから始まって、小さなトラブルが頻発した。こういうときに限って顧客から問い合わせも相次ぐ。
縁も、顧客への納品物に気になる点があると連絡を受け、確認と差し替えを急ピッチで対応した。
自席に戻ってぐったりしていると、スケジュールされていた打ち合わせの時間になり、会議室に向かった。後ろでまた電話がなっているのが聞こえる。
打ち合わせから戻ると、少し混乱は落ち着いたように見えた。
ただ、一人を除いて。
「宮本くん、申請書出しといて」
「は、はい」
「宮本くん、さっき頼んだ資料あった?」
「は!すみません、まだですっ」
どうやら新人の佑真が降ってくるタスクを消化しきれずにいる。
いつもは円が防波堤になっているのだが、それがないせいもあるだろう。
縁はしばらく様子を見ていたが、一向に状況がよくなる様子はない。
縁はつと立ち上がると、佑真の隣の円の席に座った。
「ええと、宮本くん。炭酸飲める人?」
「え、あ、はい」
「じゃあこれあげる。一口飲みな。俺コーラの布教活動してるの」
買ってきたコーラのボトルを手渡す。
「何か、大変そうだね」
「す、すみません。ちょっといっぱいいっぱいで……」
デスクの上も、それを表すように資料などで溢れかえっている。
縁は佑馬と向かい合わせになると、佑馬の両肩に手を置いた。
「あのね。ちょっと落ち着こう」
「は、はい」
「……落ち着いた?……それで、デスクの上、まず片付けよう。……要らないものは全部捨てて、必要なものは案件毎か何かにまとめて」
「はい」
佑真は素直にデスクの上を整理し出した。ほとんどが要らない資料だったようだ。
「そしたら、残ってるタスクを紙に書き出して。箇条書きでいいから。できる?」
「はい」
5、6個が並んだようだ。
「早く終わらせなきゃいけない順に、番号振ってみて」
「はい」
「……できたね?後はそれを優先順位に従ってこなすだけだ。新しく仕事を振られたらそこに追加して。できそう?」
「はい。たぶん」
「できなかったらすぐに俺に言ってよ。手伝うから」
「ありがとうございます……!」
「忙しいのは今日だけだよ。頑張って乗りきろう」
縁はそれだけ言うと自席に戻って自分の仕事を再開した。
佑真もどうやら落ち着いたようだ。
◇ ◇ ◇
昼休み、縁は外に出た。
空調の効いた室内が嘘のように暑い。
居酒屋でランチセットでも食べようかと、のれんをくぐろうとしたところに、声が掛かった。
「あの、遠山さん」
「ああ、宮本くん」
「さっきはありがとうございました。……あの、もしよかったら、お昼、ご一緒してもいいですか?」
何やら緊張した面持ちで、佑馬は頭を下げた。
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