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つぐみ鳥は夜に飛ぶ(2)*
午後は午前中に比べて小康状態だった。
ただ、夕方になって縁に急ぎの仕事が入り、残業が確定した。
うんざりしながら20時。
もう一課は縁しか残っていない。
あと小一時間もあれば片付くかなと思った頃、思わぬ来訪者が現れた。
「よう、遠山くん」
「……織江さん、こんな時間までいるんですか」
環が昼過ぎくらいの調子で声をかけてきた。
「いつもはいないんだけどね。お客様からの電話待ち」
縁のデスクに手を突くと、声を潜めた。
「もう営業部誰もいないからさ、終わったら遊びにおいでよ」
「お茶菓子出ます?」
「残念ながら出ないなぁ」
「じゃあ、気が向いたら伺います」
「笑顔で言う台詞かい?それ。まあ、期待しないで待ってるよ」
◇ ◇ ◇
ほうほうのていで21時。
ようやく仕事が終った。
鬱憤を晴らしに環に会いに行くのも悪くないかと、帰り支度をして営業部に向かった。
「お疲れさまです」
「ああ、てっきり来てくれないと思ったよ。待ってた甲斐があるってもんだ」
課長席でデスクワークをしている環を見るのは違和感がある。
そう環に告げると、
「心外だなあ。これでも俺、管理職だよ?」
「そうでしたね」
「あ、そうだ。茶菓子の代わりと言っちゃなんだけど、こっち来てよ」
環が縁の肩を押して営業二課席の半ばへ連れていく。
「ここ、無法地帯だから」
「え?」
「監視カメラの死角なんだよね。だから、こんなことしても大丈夫」
環はやおら縁を抱き締めると唇を奪った。
大胆に、音をたてて舌を絡める。
「たまにはこんなのもいいだろ?」
縁の耳許で囁き、耳朶に軽く舌を這わせた。
「……ん、勃ってるけど」
縁は環のそこに手を伸ばし指先でなぞる。
「!煽るなよ」
「……する?」
縁は上目遣いで微笑みかける。
「……しちゃうか」
環が縁の笑みに負けた。
再び口づけながら環は縁のベルトを解いてスラックスを脱がせる。
シャツのボタンも外し、胸を愛撫する。
「……いつもより息が荒いぞ」
「興奮、してるのかも」
言いながら、縁は環のチャックを開けてものを取り出す。
「環さんも興奮してるじゃない」
白い手が大樹をさする。
「まあ、な」
鈴口を指先で刺激して、裏筋をなぞる。
「ああ、そうそう」
縁が不意にぽつりと呟いた。
「うちの課の新人君いるでしょ」
根本から包み込むように扱き上げる。
「なんだよ、こっちは余裕、ねえんだよ」
環が声を絞り出す。
縁は環に頬を寄せると、耳許に悪戯っぽく囁いた。
「今日、告白されちゃった」
「はあ?!」
思わず環は縁の両肩を掴んだ。
「それでお前、まさか、」
「ふふ」
縁は答えずに笑う。
環は縁を後ろ向きにさせ、足を広げさせると、無理やり犯すように捩じ込んだ。
「……っく」
勢いで縁がデスクに両手をついて俯く。
「まさか、OKしたのか?」
動揺なのか、怒りなのか、いつもと違って荒い腰使いだ。
「ん、……はは、どう、だったかな……!」
「違うだろ?なあ」
勢いよく打ち付ける。
「ん……ふ、ぁ……あ」
縁は答えられない。
環は縁の顎を掴むと顔をあげさせた。
「断ったんだろ?そうだろ?」
縁が横目で環を見遣る。
薄い唇に、苦しそうに無理やり笑みを浮かべる。
「ふふっ」
環はその笑みと同時に射精した。
◇ ◇ ◇
荒い息を吐きながら黙って服を身に付ける。
環がなおも追求するべきか迷っていると、
「断ったよ」
服を着終えた縁が微笑みながら答えた。
「ちょっと可愛すぎて俺の好みじゃないんだよね」
「好みだったら受け入れるのかよ」
「さあ?実際になってみないと分からないね」
縁は飄々と笑う。
「お前ってやつは……」
苦々しげに環が吐き捨てた。
「さ、環さんお仕事しないと。俺すっきりしたから帰るね」
縁が帰ったあと、一人残った環は頭を抱えた。
体だけの関係だったはずが、いつの間にか心まで欲しくなり、翻弄されている。
何か手を打たないと、枝で羽を休めている鳥は飛び立ってしまう。
焦る環だった。
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