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小鳥に捧げるセレナーデ(2)
土曜日。7時過ぎに起きた縁は寝癖のついた髪をかき回しながらコーヒーを淹れた。
久々に手応えのある寝癖がついてしまっている。
「こりゃ、シャワー浴びなきゃだめかなぁ」
独り言を呟きながら、コーヒーメーカーの中でコーヒーの滴が落ちるのをぼんやり眺める。
気がついたらカウンターに突っ伏して眠っていて、コーヒーはとっくに冷めていた。
仕方なくコーヒーをレンジで温め直しているとまりあが起きてきた。
「あぁふぁあ……おはよう」
「おはよ。姉貴腹出して寝てたけど大丈夫?」
「ええ?ちょっとぉ、なんか掛けてくれてもいいじゃない」
「よく寝てたから……」
レンジからコーヒーを取り出して、スツールに腰かける。
「縁、寝癖すごいわよぉ。鳥の巣みたいになってるわぁ」
「やっぱ?シャワー浴びてくる」
縁はマグカップをカウンターに起き、浴室に向かった。
◇ ◇ ◇
シャワーを浴びて出てくると、もう12時を回っている。
再び冷めたコーヒーをレンジにかけ、バッグに着替え等々を放り込む。
プロテインを持っていくか一瞬悩み、諦めてもとの場所に戻した。
「ねー姉貴、何か食べるものある?」
「食パンとチーズくらいしかないけど」
「それでいいや。サンドイッチにしよ」
食パンにバターを塗って薄く切ったチーズを挟み、コーヒーと共に食す。
「なに、この泥!コーヒー煮詰まってる」
「縁それ何回レンジにかけたのよぅ」
コーヒーは諦めてサンドイッチだけで朝食兼昼食を済ませる。
歯を磨いて、髪を乾かす。寝癖がとれたのを確認して、髪を整えるのは諦める。
リビングに戻ると、携帯電話がOlivierからのメッセージを受信している。
環>>『ちょっと早いけどマンションの前にいるよ』
環>>『時間が必要なら辺りを回ってくるけど』
縁は『大丈夫。今行く』と返信する。
「じゃー姉貴、行ってくるから。晴臣さんによろしく」
「えぇ?ちょっと待ちなさいよぉ。私も行くわよぅ」
玄関を出てエレベーターに向かうと、まりあもついてきた。
「私ももう出掛ける時間なのよぉ」
「あそう」
エレベーターが一階に着くと、縁は早足でエントランスを出た。
「縁」
声をかけられた方を見ると、紺の車の横に環が立っている。
藍色のシャツに淡いグレーのハーフパンツで、胸元にサングラスをひっかけている。
「お待たせ」
「急がせちゃった?悪いね。……縁、いい匂いがする。髪さらさらだし」
環が縁を抱き止めて、髪に鼻先を埋める。
「寝癖がひどくて、さっきシャワー浴びたばっかりだから」
答えてから、背後に視線を感じた。
振り返ると、まりあがにこやかに立っている。
「あらあら。うふふ」
「あ、姉貴。出掛けるんじゃなかったのかよ」
「これから出掛けるわよぉ。……姉のまりあです。弟をよろしくお願いしますわぁ」
「ああ。織江環です。弟さんをお借りしますね」
まりあと環で笑顔の応酬をしている横で、縁だけが赤い顔をしていた。
「た、環さん、早く行こ」
「何焦ってんだよ?……では、まりあさんもお気をつけて」
「あら、ありがとう。いってらっしゃいな」
まりあが見送る中、環は車を発進させた。
「あー、恥ずかしかった」
縁が顔を押さえる。
「いいお姉さんじゃないか」
環がそんな縁を横目で見て、笑いながら言った。
「単なる野次馬だよ」
縁が口を尖らせる。
「そうかな」
「で、どこ行くの?」
「前に言ったろ?兄貴のとこだよ。ちょっと山登るからロングドライブになるぜ」
「ああ、レストランやってるっていう」
いつかの会話をおぼろげに思い出した。
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