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小鳥に捧げるセレナーデ(5)
20分ほど辺りを散策して戻ると、開店まで残り一時間半ほどになっていた。
「そろそろ練習しとくかぁ」
「環さん、ピアノ弾けたんだ」
「おう。俺の数少ない特技だ」
手を洗って戻って来ると、椅子の高さを調節し、ピアノの蓋を開けた。
「悪いがしばらく暇しててくれ」
そう言うと、指の運動とばかりに猛烈にハノンを弾き始めた。
しばらくすると一段落したのか、発声練習に変わった。
普段と違う環の一面に、縁が興味津々で見入っていると、環が手を止めた。
「縁、なんか照れるから携帯でも弄っててくれないか。しばらくしたら慣れると思うんだが」
「あ、悪い。つい見いっちゃった」
二階の部屋に行き携帯を探していると、階下からピアノの音色と共に歌声が聞こえてきた。
柔らかな音色と優しくも惹き込まれる歌声が重なりあって甘く情熱的な旋律を奏でている。
縁は思わずその場でベッドに腰を下ろして聴き入っていた。
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