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小鳥に捧げるセレナーデ(8)

二回目の演奏が始まって、客が思い思いに食事をしながら、または会話を楽しみながら環の演奏を聴いている。 コンサートとは違って、客が演奏を聴いても聴かなくてもいい。 それに好きなスタイルで聴くことができるのが、このような場所での演奏のメリットなのだろうか。 肩の力を抜いて聴ける分、より環の想いが心に響く気がした。 一回目は陽気な曲調が多かったが、今回はややしっとりした曲がメインのようだ。 縁はまた手すりにもたれてグラスを手にして演奏を聴いている。 ちょうど真下に歌子と連が出てきたようだ。 小声で会話しているのが聞こえる。 「やっぱカンちゃんの演奏いいね」 「俺も同じ声のはずなんだけどな」 「れんれんは歌わなくてもここに響くから大丈夫」 「……歌子も結構言うな」 ちょうど曲が終わり、最後の曲になった。 鍵盤に手をおいて、環が縁を見上げる。 やがて心に訴えかける旋律がホールを満たした。 日本語でも英語でもないことは分かるが、何語か分からない。 ただ、熱い想いがこもっているように縁は感じた。 切なくて胸が苦しい。急に目の前が歪んだ。 涙が頬を転げ落ちる。慌てて一歩下がった。 階下の会話がまた耳に入った。 「……なんだろうな」 「?何、連くん」 「このセレナーデ、こんなにスタッカート多用しないはずなんだけど」 「ふぅん。確かに小鳥のさえずりみたい。カンちゃんのことだから、何かメッセージがあるんじゃない?」 「じゃあ、黙っておいた方が良さそうだな」 震えるように感情の入った歌声が消え入り、最後の演奏が終わった。 立ち上がった環に向かって、拍手が起こる。 一礼すると、更に喝采へと変わった。 今晩は大成功に終わったようだ。

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