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小鳥に捧げるセレナーデ(12)
「それじゃ、ありがとうございました」
マンション前について、縁は車を降りた。
「また、会社でな」
環が片手を挙げる。
「あ、環さん」
ふと思い付いて環を呼び止める。
「なに?」
首をかしげた環にキスをして、縁はとびきりの笑顔を浮かべた。
「楽しかったです」
それだけ言うと急に照れが勝って、縁はエントランスへ早足で向かった。
色々予想外のこともあったけれど、環の知らない一面が見れて有意義な二日間だった。
昨晩の環の演奏を思い返しながらエレベーターで部屋に向かう。
なんだかずいぶん久しぶりに帰ってきたような気がする。
鍵を開け、バッグを自室に置くとリビングに足を向け……固まった。
「やぁだ、はるったら……ふふ、ぁ、ぁ、はぁん!」
明らかに聞いてはいけない声がする。
寝室のドアが半開きになっていて、まりあの悦楽にとろけたため息と忘我の声が廊下にまで漏れ聞こえている。
「逃げちゃダメだよまりあちゃん。可愛いあんよをこっちにやって」
「もう、わるい子ねぇ…………悪戯、しちゃ、だ、めじゃ、ない……」
「まりあちゃんがいけないんだよ?……色っぽい顔するから……」
確かに、帰る旨の連絡はまりあに入れてないが、土日で出掛けると言ったのだから、普通は日曜の夜には帰ってくると思うだろう。
なぜ平然と恋人といちゃついているのか。
泥棒よりも足音を殺して、もう一度荷物を取り、そっと玄関から外に出る。
鍵をかけて、エレベーターを呼びながら、環に数コールだけ電話をする。
エントランスに降りたとき、ちょうど環から電話がかかってきた。
すぐに折り返して連絡をくれたようだ。
「どうした縁?忘れ物?」
「あー、いや、その、今日、環さんちに泊めてもらえない、かな?って」
「え」
環にしては珍しく戸惑ったような声が帰ってきた。無理もないだろう。
「ちょっと事情があって、家に入れなくて」
「よく分かんないけど、うちに泊まるのは構わないぜ。まだ近くのコンビニにいるから、すぐ迎えに戻るよ」
「ありがとう!」
数分後、環の車が戻ってきた。
縁は助手席に乗り込む。
「いったい、どうしたんだよ?家に入れないって」
環が訪ねる。
「姉貴が彼氏を連れ込んでて、とても入っていける状態じゃなくて……。邪魔したら後で怖いし」
「はは、そういうことか。いいぜ。休日の延長戦といこうじゃないか」
環は笑って車を発進させ、再び夜の街に走り出した。
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