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アラームを止めろ(1)

環>>『今日定時で上がれ』 仕事中に、環から命令口調のメッセージが飛んできた。 トイレに立った隙に見てしまった縁は、どう返信すべきか悩む。 先日のセレナーデで、少しだけ環に心が傾いたところもある。 しかし、縁の性格からして命令には素直に従えないのだ。 反発せずにいられない。 縁>>『やだ。今日は奏太さんとの仕事があるの』 わざと環が怒る「奏太」のキーワードを入れて返信する。 環>>『そんなもん断っちまえ』 縁>>『冗談でしょ』 なぜか環が荒れている。 縁>>『早くても21時退社予定』 環>>『何にそんな時間かけてんだ。馬鹿か』 縁>>『俺と奏太さんだからこのペースで終わるの。他が担当だったら徹夜レベル』 環>>『仕事って、あいつと組んでやってんのか』 環>>『なんでだよ。むかつく』 縁>>『じゃあ別れる?』 しばらく返信がなくなる。 さすがにトイレに長居もできないので、休憩室に行くと環がいた。 視線も合わせず知らぬふりで向かい合って壁に寄りかかる。 やがて環がため息をついた。 環>>『分かった』 環>>『21時でも24時でも待ってやる』 環>>『仕事終わったら連絡しろ。××駅の西口まで迎えに行く』 縁がここまで受信すると同時に環が去っていった。 さて、どうしたものか。環の言うことを聞いたものかどうか。 ◇ ◇ ◇ 今回の仕事は珍しく奏太と二人で進めていた。 メインは一課の縁なのだが、他にその業務に関して有識者が二課の奏太しかいないという特殊な事態だった。 今回ほど奏太のマルチプレイヤーぶりに感謝したことはない。 おかげで縁にとっては幸せな時間を過ごすことができた。 さしあたって今日の分は縁の読み通り21時に終わった。 「お疲れさまです」 「ありがとうございました。香住さん」 「いえ、私の知識が役に立ってよかったです」 奏太はにこりと綺麗に笑うと帰り支度を始めた。 笑顔にみとれた縁はしばらく迷った。奏太と一緒に帰ってしまうか。 癪だが環の待つ駅へ向かうか。方向は全く逆だ。 「遠山さんも帰りますよね?」 奏太に聞かれて縁はとっさに答えた。 「あ、俺は少し用事があるので。お先にどうぞ」

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