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アラームを止めろ(2)

環に連絡を入れ、電車に乗った。 家とは逆方向の電車なので、少し新鮮だ。 数駅で目的地に着く。 指示通り西口に向かうと、本当に環がいた。 黒のシャツにグレーのジーンズで、会社では見せない仏頂面。 「どうしたのさ環さん。そんなに怒って。そんなに俺が奏太さんと仕事するのが嫌?」 「ああ、嫌だね。ていうか俺の前で「奏太さん」て言うな。「香住課長」でも「香住さん」でもなんでもいいから、下の名前で呼ぶな」 「そんなのどう呼ぼうと俺の勝手でしょ」 「それくらい俺のわがまま聞いてくれてもいいじゃないか」 「わがまま聞いてるでしょ。21時上がりでも呼び出しに応えたんだから」 「……」 環が無言で縁を見おろす。 「分かったよ。気が向いたらそう呼ぶよ」 環と縁は同時にため息をついて、思わず顔を見合わせた。 環が少し機嫌を直して片方の口角を上げ、駅の外を指さす。 「車に乗れよ。飯は食ったのか?」 駅の外に見覚えのある紺の車が止めてある。 「食べたよ。「香住さん」と」 「そうかい。じゃ、家に行こう」 環は運転席に乗り込むとエンジンをかけた。 心地よい振動とともに車が走り出す。 「この間は気にしなかったけどさ、この車って結構な高級車だよね。家持ちだし。環さんて意外とお金持ち?」 「この年で独身だからな。それなりに金はたまるさ。それに家はただ相続しただけだ」 「家って維持費とかかかるんでしょ?」 「そりゃかかるが、色々と思い出が詰まってるんでね。そう簡単に手放せない」 「感傷的だね。環さんらしいや」 窓の外を街の灯が流れて行く。20分も走っただろうか。 環の家に着いた。住宅街には少し不釣り合いな古びた洋館だ。 ガレージに車を入れると、環についてガレージ内から直接玄関に出る。 「お邪魔しまーす」 「スリッパなんて気の利いたもん置いてないから、すまないがそのままで上がってくれ。掃除はしてあるはずだから」 「え、環さんが掃除してるの?」 「まさか。家政婦頼んでんだよ」 「やっぱ金持ちだ。課長職ってそんなにもらえるんだ」 「俺の場合は副収入があるだけだ」 玄関ホールの突き当りは二階への階段になっている。 左側に両開き戸があり、リビングに通じている。 環は片方の戸を開けるとリビングへ縁を招き入れた。 「荷物はそこのソファの横にでも置いてくれ」 「ん。ねえ、シャワー浴びさせてくれない?汗かいちゃって気持ち悪い」 「いいぜ。俺ので良ければ着替えを貸そうか?」 「ありがと。助かる」 浴室は玄関から右の廊下を行って右側だった。 レトロな雰囲気だが掃除が行き届いていて清潔感がある。 微かに漂うラベンダーのような石鹸の香りも嫌いじゃない。 シャワーで全身の汗を洗い流すと、疲れも押し流されていく気分だ。

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