26 / 28
アラームを止めろ(3)
浴室から出ると、タオルとドライヤーと着替えが置いてあった。
着替えはさすがに環サイズで縁には一回りほど大きい。
袖口を折って着ると、なんだか子供になった気分だ。
髪を乾かして、リビングに戻った。
「環さん、ありがと……何笑ってんのさ」
「いや、さすがに俺のじゃ大きかったな、服。可愛くなってんぞ」
「うるさいな。これでも平均身長はあるんだよ」
「うん。いや、可愛いからこれでいい」
環は縁を抱き寄せるとさらさらの髪に頬を寄せる。
「髪さらさらだし。最高」
完全に環の機嫌は直ったようだ。環の機嫌は。
「環さん、酒。どうせいっぱいあるんでしょ?」
「おう。任せとけ。何がいい?」
「スコッチ」
「はいはい」
環はリビングの片隅の棚に行くと、一本の瓶を取り出してグラスに中身を注いだ。
棚には大小さまざまな酒瓶が並んでいて、ちょっとしたバーコーナーになっている。
戻ってきた環はグラスを縁に手渡し、ソファに座るよう促した。
「大体さ、なんで今日なの」
一口飲んだ縁は環に突っかかる。
「俺は残業してるってのに。俺様かよ」
「おいおい、急に機嫌悪くなったな。……まあ、俺がちょっとむしゃくしゃしてたから、縁の可愛い笑顔で心癒してもらおうと思ったんだよ」
「そりゃ残念だったね。この分じゃ笑顔なんて出そうにないよ」
広いソファの上で膝を抱えた縁はスコッチをちびちび飲む。
「つんつんしながら飲む酒なんて美味くないぞ」
環はそんな縁からグラスを取り上げると代わりに唇を奪った。
むすっとしたままキスを受けた縁は、口の中に舌と異物が入ってくるのを感じた。
「!」
にやっとして環が離れる。
「いつまでも拗ねてるお子さまには飴をあげような」
固くて甘いものを口の中に押し込まれた。
イチゴの甘ったるい味が口の中を占拠する。
「なんだよこれ」
「なんかポケットの中に入ってたから、縁がシャワー浴びてる間舐めてたんだけど、酒に合わないからやる」
にやにやと環がグラスを傾け酒を飲む。
「くそ甘いよ。俺も飲めないじゃん」
「お子さまにはぴったりだろ?」
ふてくされた縁は環に背を向けてソファの肘掛けに突っ伏した。
「もー。なんだよ。腹立つな」
「そう怒んなよ」
環が手を伸ばして縁の頭を撫でる。
縁が怒っているのを楽しんでいるのが分かって、縁は余計にむかっ腹がたつ。
「俺を怒らしていいの?」
縁は勝負に出た。
「は?」
「今日はやんないよ」
「おいおい」
「本気だよ」
向き直った縁は肘掛けにもたれ掛かって環に舌を出す。
環はにやにやとそんな縁を見ていたが、側に座り直すと力ずくで縁を抱き寄せた。
首筋に軽く唇を触れて、耳元で囁く。
「ま、そんな夜もいいさ。添い寝で満足だよ」
「俺、このソファで寝るもん」
「えー。36歳にここで寝ろってか。……ま、いいよ。縁のためなら一晩くらい頑張るさ」
ちょっと怯みはしたが、環は引かない。
「ここに二人寝れる?」
「こうやって抱いてればいけるだろ。なんなら徹夜でもいいぜ」
「ふん」
言い返す言葉がなくなって、縁はそっぽを向いた。
くっくっと笑いながら環が耳を甘噛みする。
「何にせよ俺は縁と一晩過ごすからな。どんな形でも」
ともだちにシェアしよう!