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アラームを止めろ(4)
飴を舐め終わった縁が酒を飲み始めて一時間。
「おい、大丈夫か?ペース速くないか」
縁がグラスを空にする勢いに、環が心配の声をかけた。
「ふん。俺はね。せっかくの「香住さん」と一緒に帰れるチャンスをふいにしてこっちに来ちゃったの。飲まなきゃやってられないよ」
「後悔してるのか?」
「してるね。環さんは馬鹿にしてくるし」
「馬鹿にはしてないぜ。あんまり可愛いからついからかいたくなるんだ」
「それを馬鹿にしてるって言うの」
またグラスを空にして、ボトルに手を伸ばす縁を、環が止めた。
「ちょっと休憩しよう。な?」
「や・だ」
「大人気ないぞ」
「どうせお子さまですよ」
「どうしたんだよ縁。らしくないぞ。いつも冷静なのに」
「やけ酒で酔っ払ったんですー」
縁は我ながら馬鹿っぽいなと思いながらも口を尖らせる。
「おいおい、本気かよ」
「冗談に見える?」
「どうしたら落ち着いてくれるんだ?」
「キスして」
「それならお安いご用だ」
頬に手を触れてきた環を縁が止める。
「脚に。膝でいいよ」
「はあ?」
環が呆気にとられる。
「さっきシャワー浴びたから綺麗だよ」
「だってお前、膝って」
「足の指よりましでしょ?」
「なに考えてんだか……いいよ、やってやるよ」
半ば寝転がった縁のハーフパンツの裾を上げて、曲げた片膝に環がキスをする。
滅多に見ない環の伏せた目元に支配欲を覚える。
「次、指。ちゃんと一本ずつ丁寧にね」
縁は右手を差し出した。
「お前、調子乗ってんな?」
「乗ってるよ。でもキスしてくんないならもっと酒飲む。吐くまで飲む」
縁は子供じみた脅しをかける。
「はいはい」
諦めた環は縁の白い指先に唇を触れる。
まるで主に忠誠を誓う騎士のように。
「左も」
もはや環はなにも言わない。
ちゅっ、と口付ける音だけが広い部屋に静かに落ちる。
年上で、キャリアも上で、プライドも高い環を己の好きにすることに夢中になる。
「次はどこにしようかなー」
「縁……いい加減にしろよ」
環が顔をあげた。口元が笑っていない。
縁は詰め寄ると、額が触れるほど近くで言い含める。
「あのね。もともと俺はこういう性格なの。自分のやりたいようにやるし、欲しいものは手に入れる。……唯一の例外が「奏太さん」なの」
環は無言で縁の顎を掴む。
「何?」
何も言わずに環は縁にキスをした。
一番初めのキス、体だけの関係を結ぶ約束をした時を思わせるキスだった。
「で?あとは何をすればいいんだ、俺は?」
「ベッドまでエスコートしてもらおうかな」
「仰せのままに」
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