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まりあからのご褒美(1)
「ただーいまぁ」
玄関から機嫌の良さそうな声が聞こえた。
「お帰り」
ソファで本を読んでいた縁は反射的に応える。
……。そのまましばらくしても、まりあがリビングに入ってこない。自室に入った音もしない。
「姉貴、大丈夫?うわ!ごめん。ちょっと踏んじゃった」
縁が玄関に様子を見に行くと、案の定玄関を上がったところで丸くなって眠っていた。
「いーたーいーわーよぉ」
手のひらを踏まれたまりあが急に起き上がり、屈みこんだ縁の肩を突いて仰向けに倒し、両足を抱え込もうとする。
「いや、ちょっと、何しようとしてるのか分かんないけど、やめて。怖い」
縁は必死でまりあの手を振り払う。
「何って、ジャイアントスイングよぉ」
「こんな狭いとこでやったら死ぬじゃん俺!……もー、酔っぱらってるの?」
「酔ってなんかないわよぅ」
ゆらりとまりあが立ち上がる。
「じゃあ、風呂入って」
「何よぅ、私に命令するのぉ?」
「風呂に入ってください。お願いします」
「あらそう。じゃあ入ってあげるわぁ。……あーもう、暑いったら」
浴室に向かいながら服を脱ぎ捨てていくまりあ。
後ろから縁が服を拾ってついていく。
「ちょっと、下着は勘弁してよ」
縁が文句を言うと、
「誰も拾ってなんて頼んでないわよぉ。そこに置いときなさい。あと、新しい下着とパジャマ持ってきてくれるぅ?」
「えぇ……」
結局、縁はできるだけ見ないようにしながらブラとショーツを拾って洗濯かごに放り込んだ。
ちなみに、黒のレースだった。
◇ ◇ ◇
風呂から上がったまりあは、至って普通の様子で冷蔵庫から麦茶を取り出し飲んでいる。
「今日は何飲みだったの?」
「うぅん、職場の女子会?」
「へぇ。女医さんの飲み会って何話してんの?」
「別に普通よぉ。男がいないとか、どこのスイーツが美味しいとか、どのコスメがいいとか、そんなの」
「へーぇ」
「そうだ、あんたの男事情はどうなのよぉ」
「え、ちょっと俺関係ないじゃん」
「言わないと同僚に縁紹介するわよ。餓えてるから速攻で餌食だわね」
「怖いからやめてよ」
「じゃあ言いなさいよぉ。奏太さんとは少しは進んだの?」
「えー、全然。あんまり傷抉らないでよ」
「それにしちゃ最近ちょっと楽しそうじゃない。この間は週末お泊まりだったし。別の男作ったのぉ?」
「……まあ。遊びだけど」
「写真」
問答無用でまりあが携帯の提出を要求する。
渋々環と撮った画像を見せた。
「あらぁ、いいじゃない。セクシーだわぁ。本当に縁はいい男を掴まえるわよねぇ」
「そんなことないよ。今回なんて、向こうから無理やりだったし」
「強引なのぉ?尚更いいわぁ」
まりあが頬杖をついてうっとりする。
「姉貴、そういうのがタイプなんだ」
「そうねぇ、結構好きよぉ。……うーん、でも、遊びって感じでもないわね」
「遊びだよ」
「縁はそのつもりかもしれないけど、この人は結構本気なんじゃなぁい?なんか縁を見る目が本気っぽいわよぉ」
「そうかなぁ」
「ねえ、今度縁の会社の男と合コンしない?こっちも選りすぐりの美人女医揃えておくから」
「えぇ、姉弟で合コン?なんかやだなあ」
「いいじゃない。出会いは大切よぉ」
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