10 / 28
まりあからのご褒美(2)
そんな会話を交わした数日後。
縁の知らないところで、奏太の同期の飲み会が行われていた。
幹事は円だったが、翌日から旅行とかで一次会で早々に離脱した。
二次会、三次会と進むにつれて、女性が減り、最終的に奏太を含めた男5人になっていた。
通りすがった韓国料理屋に雪崩れ込む。
「俺らもさぁ、結構いい年だよな」
「まあな、もうすぐ30だし」
「香住はいいんだよ、顔がいいから女には困んないだろ」
「そんなことないさ」
「出世もしてるし」
「たまたまだけどな」
「誰か女の子紹介しろよ」
「無茶言うなよ」
運ばれてきたビールを煽る。
「沖田は、かなり年下の子と付き合ってたんじゃなかったのか?」
「別れたよ。飯の好みが合わなくてさぁ」
「細かいな」
「いやいや、結構重要よ?出掛けるたび飯決めるのに揉めるから。サラダとか軽いパスタとかしか食わないんだもん。草食動物かっての」
「伊藤も彼女いたろ?」
「先月までな。理由は聞かないでくれ」
「お、おう」
ちょっと場が落ち着いたところで、矯声が隣の席から響いた。
「あらぁ。奏太さんじゃなぁい」
身を乗り出しているのは言わずと知れたまりあだった。
「あれ、まりあさん」
「何何、香住知り合いか?」
美人と見て男どもが食いつく。
「あ、あぁ。一課の遠山くんのお姉さんだ」
「そちらはなぁに?お友だちで飲んでらっしゃるのぉ?」
「まあ、会社の同期で飲んでるところです」
「あらぁ、そうなのぉ?こっちも職場の飲み会なのよぉ」
いったんまりあの顔が引っ込む。
何やら向こうで相談している様子。
「ねえぇ、良かったらご一緒しませんことぉ?こっちもちょうど5人なのよぅ」
「え、えぇ。……どうする?いいかな?」
奏太が回りに聞くと、嫌と言うはずもなくOKが出た。
「じゃあ、合同にしましょうか」
奏太たちがテーブルの片側に詰め、空いたところにまりあたちが座る。
「えぇと、自己紹介からかしらぁ。遠山縁の姉のまりあです」
「恭子です」
ショートカットできりっとした顔つき。気が強そうにも見える。
「香苗ですー」
全体的にふんわりとした雰囲気を醸し出している。医者と言うよりはお嬢様といった風情だ。
「マキです」
てきぱきと物事をこなしそうな印象だ。この中では一番医者のイメージに近い。
「えっと、小百合です」
黒髪のロングストレートで、一番大人しそうな印象を受ける。
「あ、ええと、俺らもか。奏太です」
「沖田総司です」
「え、同姓同名?」
マキが反応する。
「そう。親が新撰組のマニアで、こんな名前に。でも覚えてもらいやすいから重宝してるけど」
「あー、悠人です」
「哲司です」
「祐也です」
自己紹介が終ったところで、悠人が切り出す。
「あのー、皆さんは何のお仕事を?」
「近くの帝都総合病院で医者やってます。みんな専門は違うけど」
マキが答える。
「え、あそこの病院こんな美人のお医者さんばっかりなの?今度行こうかな」
「いらしてくれたら太めの注射サービスしますね」
「ひゃー!」
ひとしきり沸いたところで、まりあがふと悪戯を思い付いた。
「ねぇ奏太さん、ちょっと協力してくれるかしらぁ」
もうかなり酒の入っている奏太は一も二もなく承諾した。
「ちょっとねぇ、写真を撮らせて欲しいのよぉ」
まりあは奏太の隣に座るとツーショットで撮影する。
撮る瞬間、まりあは奏太の頬に唇をつけた。
「あ、まりあずるーい!」
「ふふ。男一人追加するから許してよぉ」
まりあは撮った写真を特にコメントなく縁に送りつけた。
ともだちにシェアしよう!