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第14話
灯が奪い返すより先に、僕はそのページを見てしまった。宇佐木春樹、春樹、Haruki、ノート一面に僕の名前が書いてあった。縦書き、横書き。丁寧に書いたり、走り書きしたり。いろんな書き方で僕の名前があるのを見た。
「僕の名前……?」
「『宇佐木春樹』って、いい名前だなと思って。何か、ほら、そういうの書きたくなるときってあるじゃん」
灯の耳と首筋は真っ赤に染まり、こめかみからひと筋汗が流れていた。
僕は奪い返されたノートの表紙に書かれている大切な三文字を見ながら頷いた。
「僕も『和仁灯』っていい名前だと思うよ」
灯は口許に笑みを浮かべ、呟くように言った。
「数学っていうか、算数からだけど。俺に教えてくれる?」
「いいよ。期末で数学五〇%取ったら……」
ノートを抱いて真っ赤な灯の耳に僕は口を近づけ、可能な限りのエッチな声を出した。
「シックスナインでフェラしよう」
「よっしゃあああああっ!」
灯は公園に響き渡る声で叫んだ。
「じゃあ、さっそく確認テストしよっか」
僕の名前が書かれた数学のノートを使って、僕は自分の受験勉強の内容を辿りながら問題を書き込んだ。
簡単な加減乗除や数列、図形などどれも理解していて、展開図も得意そうだった。分数も半年前の僕よりしっかり理解していたけれど、小学五年生で習う面積の計算や小数、分数の計算あたりで一気に精度が落ちた。
赤鉛筆で丸つけする僕の手許を見て、灯はため息をついている。
「マジでわかんねぇ」
「全然心配いらないよ。小学五年の範囲だもん、余裕で取り戻せる。算数のカリキュラムって、小五あたりから急に数学っぽくなって難しくなるんだって。ここを乗り越えるかどうかの差が中学で出てくるらしいよ。僕が教えるから大丈夫。一緒に頑張ろう」
塾の先生の言葉を受け売りしたら、灯が僕の顔をのぞき込んできた。
「春樹が解けた問題の数だけキスしてくれたら、もっと頑張れる」
「じゃあ、明日までの宿題をノートに書くよ。正解した数が明日のキスの回数ってことでいい?」
「よっしゃ!」
僕は灯にせがまれるまま、一〇〇個も問題を書いた。
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