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第15話

 もっと一緒にいたかったけど、いつの間にか日は暮れて、塾へ行く時間になっていた。 「灯に教えられるように、がっつり勉強してくる!」  出した道具を全部スクバに押し込み、ベンチから立ち上がろうとしたとき、灯に肩を抱かれた。さらには僕の左右の手を順番に掴んで、灯の腰に抱きつくようにされた。ふわりと漂ってくる汗の香りが甘くて心地よかった。 「今日はありがとう。また俺と一緒にしゅわしゅわしてくれる?」 「うん。しゅわしゅわする」  灯は力一杯僕の身体を抱き締めた。 「春樹。めっちゃ好き。明日も、明後日も、学校行くのがめっちゃ楽しみ!」 「僕も。灯、大好き」  きつく抱き合って、ゆっくり身体を離した。 「すぐそこのクリーム色の家が俺んちなんだ。昼間は親、いないからさ。夏休みの宿題は一緒にやろう」  たくさんの下心が隠れている誘いに、僕ははっきり頷き、灯は「よっしゃ!」と両手を握りこぶしにした。本当に塾へ行く時間が迫って僕がベンチから立ち上がると、灯も一緒に立ち上がった。 「ちょっとでも長く恋人と一緒にいたいから」  照れ笑いしながらそう言って、僕を商店街にある学習塾まで送ってくれた。 「また明日な、春樹」 「うん。また明日!」  スクバを背負って商店街を歩いて帰って行く背中をちょっとだけ見送って、僕は塾の授業に参加した。いつもの教室が色鮮やかに見えて、授業の内容もよくわかった。僕はさらに数学の先生を掴まえて、割合の説明の仕方を教えてもらった。  でも翌日、灯は学校に来なかった。

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