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第16話

 でも翌日、灯は学校に来なかった。 「突然ですが、ご家庭の事情で引っ越されました」  担任からの説明はそれだけだった。  帰り道、僕は昨日教えてもらった灯の家へ行った。『和仁』と表札が掲げられたクリーム色の家からは、人の気配は感じられなかった。でも磨りガラスの窓越しには台所用品と思われる物が透けて見えるし、玄関脇の駐車スペースには年季の入ったママチャリも停まっていて、引っ越したというには何かがちぐはぐで変な空気だった。  緊張しながらインターホンを鳴らし、一歩下がって反応を待っていたとき、背後から声を掛けられた。 「きみ、灯の友達? どこに行ったか知ってるかな? 皆、いないんだよね」  ごく普通のビジネススーツを着た男性だったが、髪は汗に濡れ、目が血走ってぎょろぎょろしていた。微かに酒の臭いもした。僕は黙って首を横に振り、頭を下げて脇をすり抜けた。追いかけてきたらどうしようと怖かったが、男性は追ってくることはなく、僕は家に向かって走った。  家族の暴力から逃れるために、身の回りの物だけを持って突然に引っ越すことがあると知ったのは、母親たちのひそめられた会話からだった。

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