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第18話

 僕は、あるベンチャー企業の情報システム部で働いている。役職はプレイングマネージャーで、システムエンジニアの仕事をしつつ、スタッフのマネジメントや評価、全体の仕事の管理、他部署や社外への対応などをしている。 「お、宇佐木。おはようさん」 「おはようございます」  蒲田さんは情報システム部のディレクターだ。この会社のオフィスがもっと辺鄙な倉庫街にあって、学生だった僕がアルバイトをしていた頃から、僕はこの人の下にいる。 「宇佐木の今日の予定は?」 「昼頃、予実管理システムのデモが上がってくるんで、午後イチでプレゼンです。夜はレイアウト変更の工事に立ち会います」 「予実管理のデモは副社長も見たいって言っていたから、時間が合うようだったらメンツに入れてくれる? 合わなかったら別途副社長にアポとって」 「了解です」  僕は頷きながら自分の端末を立ち上げ、周囲を見回す。三〇人いるメンバー一人一人の状態を観察しながら、手元の勤怠管理表や進行管理表と照らし合わせていく。仕事が遅滞なく進んでいるか、遅れていても挽回できるのか、リスク緩和策を講じておく必要があるのかを考えながら、全員が気持ちよく働けるようにまんべんなく接していく。 「おはようございます。姐さん、調子はどう?」  僕は仕事の手が止まるタイミングで話し掛け、担当者から預かったファイルを差し出した。 「これ、産学連携プロジェクトの資料です。来週のミーティングまでに目を通しておいてください」 「えー、やだあ。私、文字読むの嫌いなのよねぇ!」  姐さんというニックネームの女性社員に派手に突き放されて、僕は笑顔を作る。 「知ってるよ。でもきっと姐さんは好奇心が抑えられなくて読んじゃうし、読んだ内容は誰よりも理解してミーティングに現われて、メンバーを鼓舞してくれるって僕は知ってるんだ」 「相変わらず口が上手いわね」 「蒲田さんに仕込まれたからね」  黙々とパソコンに向かっていられると誤算してシステムエンジニアになった僕が、今ではここまで話せるようになったんだから、蒲田さんの指導と僕の努力はなかなかのものだ。 「いい雰囲気で話せたな」  どんな些細なことでも褒めてくれる蒲田さんの向かい側に座り、僕は小さく会釈して受信メールをクリックした。

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