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第19話

「昼頃って言ってたのに、もうデモができあがったのかな」  その内容に目を走らせ、僕はデスクにごっつんこした。 「だから僕、何度も確認したじゃん……っ」 「宇佐木、どうしたー?」  わざとのんびりした声で問う蒲田さんに向かい、僕は顔を上げて吠えた。 「予実管理システムのデモの納期が間に合わないってっ! 昨日確認したときは大丈夫って言ったくせにっ! 何で嘘の状況報告してくるんだよーっ!」  僕のベンダー運が悪いのか、舐められやすいのかわからないけれど、こういう経験は残念ながら初めてじゃない。だからこそ内示書も可能な限り詳細に記入したし、正式な発注も前倒しにしたし、何度も状況を確認し、疑問点はないか、問題点はないかとフォローを続けてきたのに。 「僕にっ、平和をっ、寄越せ……っ」  これから一波乱だと思うと気が滅入る。でも反応が遅れれば遅れるほど、対応は後手に回る。まずは先方に電話して事実確認しなくては。 「電話なんか嫌いだぁぁぁぁぁ」  再び机にごっつんこして床に向かって呻いてから、仕方なくスカイプを立ち上げた。  報告・連絡・相談、そして確認。もう一回確認。しつこいほど確認。ランチタイムもなく動き回って、僕が再び机にごっつんこしたのは午後三時半を過ぎてからだ。 「お疲れ様です」  床を見ていた僕の視界に、紺色のスーツを着た男性が片膝を突いた。  青いネクタイに重なって『鮫島灯 SAMEJIMA, Tomosu』と書かれた社員証がある。 「一日付で経営企画室に配属されました、鮫島といいます。よければ召し上がってください」  エナジーゼリードリンクのアルミパックが差し出された。僕の胃は急に熱く溶けるような空腹を思い出し、遠慮なく受け取って頭を下げる。 「ありがとう」  決まりすぎない素朴な短髪が似合う男性は、ほどよく爽やかで人懐っこい笑顔を向ける。 「ずっとブランチ(支店)にいて、本社は初めてです。いろいろ教えてください」 「僕に教えられることがあれば」  控えめな自己紹介だが、ウチの会社は業績の伸びに人材の補充が追いついていなくて常に人手不足だから、ブランチに割ける人数が少ない。ブランチに行けるのは冷静な判断力と熱い行動力、そして現場を統率するリーダーシップを兼ね備えた社員だけだ。本社勤務をすっ飛ばして工場やブランチからキャリアをスタートするなんて、よほどの有望株なんだろう。

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