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第27話

「アンゴラウサギみたいにもこもこで可愛いですね」  パイル地のもこもこしたルームウェアも乳首を目立たせない工夫なのだけど、そんな説明をする気もなく、僕は寝たままネクタイを解き、ベストとワイシャツのボタンを外した。猛烈な倦怠感に襲われ、そこで力尽きて動作を止めていたら、鮫島の手が触れた。 「失礼します」  手早くスーツとワイシャツを脱がされて、かわりにもこもこルームウェアに着せられて、僕はベッドに格納された。鮫島の手が僕の頬や額、首筋に触れて熱を測った。 「結構ありますね。イオン飲料は飲めますか? アレルギーや嫌いな食べ物は?」  好みをヒアリングすると、僕のカギを持って出ていき、ドラッグストアの袋を持って戻ってきた。 「とにかく薬を飲んで寝てください。水分補給はこまめにしましょう」  ベッドサイドに片膝をついた鮫島は、僕の手のひらに風邪薬を三粒のせ、僕が薬を口に含むとミネラルウォーターのペットボトルを差し出すマメさで世話を焼いてから、僕の机を指さした。 「宇佐木さん、机と電源を借りてもいいですか」  僕の机の上には大画面の液晶モニターとLEDライト、電源タップ、Wi-Fiルーターと外付けハードディスクが置いてある。 「いいけど。テレるの?」 「テレるって、宇佐木さんの部屋に二人きりですから、意識すれば照れますけど」  鮫島は首の後ろを手のひらでこすった。僕はボックスティッシュをたぐりよせ、鼻をかみながら首を横に振る。 「そうじゃなくて、テレワークすること。たぶんウチの会社でしか通用しない方言だけど、ブランチでは言わない?」 「我遠程工作(ウォユェンチャングォンヅォ)。たぶん、特に略さないと思います。考えないでしゃべっているから、いざ訊かれると自信ないですが」  ブリーフケースからタブレットPCと、空間共有用のWEBカメラがついたミニタブレットを、ジャケットのポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、手際よくつなげていく。ちらりと見えた壁紙は台湾の観光名所キューフンの夜景だった。石段の左右に瓦屋根の古い建物が高く隙間なく並び、真っ赤な提灯に明かりが灯って、看板には画数の多い漢字が書きつけられている。 「語学って身につけるのに相当な努力が必要だろ? 自然に話せるなんてすごいね」 「子どもの頃から母親とは台湾華語で話していたんです」  僕の額に冷却シートを貼り、雲を載せるように優しく布団をかけ直してくれたが、経営企画室のメンバーと回線がつながると、深みのある聞き取りやすい声で話し始めた。

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