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第34話

 入れ違いにバスルームへ入っていった鮫島のシャワーを使う音を、ただ黙って聞いているだけでは居心地が悪く、ベッドサイドのコントロールパネルを操作したら洋楽が流れた。さらにスピーカーのように音に合わせてベッドが振動して、僕は驚く。 「ラブホテルってこんな機能もあるんだ?」  さらにボタンを押したら天井に星空が浮かび上がった。見上げていたらベッドが沈み、背後からそっと抱き締められた。髪に、頬に唇が触れ、振り返った僕の唇に鮫島の唇が触れて、ゆっくりベッドへ倒れ込んだ。舌が絡んでその美味しさに身体の力が抜けたとき、鮫島の手がバスローブの合わせ目にかかった。 「待って。僕、コンプレックスがあるんだ」  口を外し、鮫島の手首を掴む僕に、鮫島は柔らかく頷き、僕の頬にキスをした。 「どんなコンプレックスか訊いてもいいですか」  互いの前髪が触れる近さで、僕は小さな声で告白した。 「乳首が、大きい」 「いいじゃないですか。俺、大きな乳首って好きです」  すぐに鮫島は左右の口角を上げて見せ、僕を安心させるように顔中にキスの雨を降らせた。 「でも」 「見せてください」  僕が迷いつつ頷くと、バスローブの胸元が緩められて、赤い木の実をくっつけたような乳首が露出された。鮫島は満面の笑みを浮かべる。 「最高。めっちゃ俺好みの乳首です」  うっとりした表情で僕の乳首を見つめ、指先でそっと触れてくる。その刺激だけで僕の背中は震え、ますます鮫島は喜んだ。 「鮫島って、変わってるね」 「そうですか? 俺は頭に火傷の跡があります。ゲイは髪が短い方がモテるけど、ケロイドになっていてその部分は目立つし、髪も生えてこないので、坊主にはできません。人に頭を抱かれるのも少し緊張します」  そう言う割に、僕の胸に頬を押しつけたまま動かなくて、僕は訊ねた。 「ええと……見てもいい?」  鮫島が頷いたので、僕はそっと彼の黒くて硬い髪を掻き分けた。  最初に見つけたのは直径一センチほどの丸い形をしたケロイドだった。その部分に髪は生えてなく、柔らかなピンク色の皮膚が盛りあがり、きめを失っててらてら光っていた。そんな傷が頭部全体に十か所ほども散らばっている。 「触るのは、痛くないの?」 「大丈夫です。キスしてくれてもいいですよ」  おどけて笑いながら口にする言葉は少し震えていて、僕はそのケロイドの一つ一つにそっと唇を押し当てた。 「実の父親にやられました。俺が家じゅうの酒を捨てたことに腹を立てたんです。これ以上酒を飲んで欲しくなかっただけなんですけど。アルコールは難しいです。解決できないまま終わりました」  僕はもっと優しい気持ちで鮫島の頭を抱いていたかったけど、鮫島は僕の乳首にむしゃぶりついた。 「あっ、鮫島……っ」  唐突にセックスが始まった。

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