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第14話
「ありがとう、天使様!」
力一杯に叫んで、恥ずかしさと共にクルリと向きを変えて駆け出した。こんなに大きな声を出したのはあの時以来で、少し気分が軽くなった気がした。ポケットは重いから、ちょうどいい。
もしかして天使様は、僕を待っていてくれたのかな? なんて思う。
あそこで観覧車を動かしながら、僕が来るのを……。
それなら、すごく嬉しい。
この嬉しい気持ちを、誰かと分かち合いたいと思った。
明日の朝は父さんに「おはよう」って言ってみようか。いつも密かに二人分用意してるコーヒーを、カップに入れてあげるのでもいい。
何も話す話題が見つからなくたって、ひとことの言葉を交わす、そこから初めてみよう。
結局、最初に父さんの顔が浮かんだ事に、笑ってしまった。
出口へと懸命に走りながら、耳にはざわめきが聞こえていた。心臓が疼いて、視界が霞んでゆく。
――このドキドキはきっと、一生モノなんだろう。
不安になる度、きっと蘇る。ポケットの、重みと共に……。
「え……」
出口を出た僕は、道路手前のポールに腰掛ける影に足を止めた。携帯電話を見つめながら寒そうに肩を縮め、忙しなく体を揺らしている。
「……一弥……?」
呟いた僕の声が聞こえたように、影がこちらを振り返った。過ぎる車のライトを浴びて、姿が浮かび上がる。その背後にある、大きな影と共に。
「あっ……」
――あれは。
天使の、翼だ。
それは酷く透明で、さり気な過ぎて、昼の光の中では映らない。闇の力を借りて、やっと僕へと届いた。
慌てて駆け寄った僕に、一弥は思いっきり顔を顰めてみせた。
「遅ぇよ、バカ」
当然のように僕の手を引くと、グジュと鼻を鳴らして立ち上がる。
「ごめ――」
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