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第15話

 ごめんと言いかけて、僕は言葉を途切らせた。違う。今言いたいのはこれじゃない。言い忘れちゃいけないのは、この言葉じゃない。  今、一番に伝えたい言葉。 「……ありがとう、待っててくれて」  言い直してそっと手を握り返した僕に、驚いたように一弥が目を剥いた。俯く僕の上から、ボソリと呟く。 「お前今、すっげぇブサイク」 「な、なんでだよ?」  顔を上げると、一弥は笑ってた。偽りの笑顔なんかじゃなく、あの笑顔で。  僕が見惚れていると、彼は体を折って爆笑を始めた。お腹を抱え、笑い続ける。 「目は腫れて土偶みてぇだし、鼻は真っ赤っ赤だ! ひでェー!」 「ひどいのは一弥だよ」  鼻を押さえモゴモゴと言った僕に、彼はずっと握ったままだった手を引いて、歩き始めた。 「お前の手、あったかいな」  背中越しの声に、一瞬息が止まる。 「うん、さっきまでココア飲んでたから」  クスクス笑うと、一弥が「なにぃー!」と声をあげて唸った。 「人が寒空の下、凍えてたってのによ」  チロリ、と責めるように向けられた視線すらも心地よい。僕をあったかいと感じてくれる人がいる、それだけで嬉しかった。 「お前。ごめんって言わないんだな」 「え?」 「いつもは言ってんだろ、バカの一つ憶えみてぇによ」 「あ……」  口元に手をあてた僕に、一弥はフンと鼻を鳴らした。 「……なあ。俺達が最初に言葉を交わした時の事、お前憶えてるか?」 「教室の扉の所でぶつかりそうになった時?」 「そう。あん時もお前、ごめんって言ったんだぜ。それもさ、めっちゃ早く。俺の言葉も聞かずにさっさと行っちまうし」 「えーッ。ちゃんと聞いてたよ。一弥はあのとき『いや』って言ってくれたんだよ」  そうだ。ちゃんと憶えてる。  怖そうな顔してるのに、ホントはやさしい人なんだなぁって思ったんだもん。  その時の事がうれしくて、一弥を目で追いかけるようになったんだもん。

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