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第16話
「違ぇよ。俺はあの時『いや、こっちこそ悪ィ』ってちゃんと言おうとしてたんだぜ。それも聞かずにさっさと行っちまってよ。んで気付いたらお前、誰にでもすぐ『ごめん』って言ってんだもん。俺、最初お前嫌いだったなぁ。凄ぇイラついた」
「うん」
そうだね。だってそれは、僕を守ってくれる呪文のような言葉だったから。
誰ともぶつかる事なく、生きていくのには必要な言葉だったから。
――それで一弥は、ずっと怒ってたのかな?
僕がいつまでも一弥に謝ってばかりだったから?
だから、イライラしてたの?
「でもさ、そのうち。こいつの事笑わせてみてぇなって思うようになってた。こいつが遠慮しなくていい存在になりてぇって。だから何回も話しかけてさ、お前は憶えてねぇだろうけど、初めて笑ってくれた時は『やったーッ』って叫びたいくらいだったんだぜ」
信じられない思いで一弥を見つめる。すると彼は、一瞬だけ僕を振り返った。
「寒くて死にそうだ。なんか奢れよ、真」
照れたその声がやさしくて、思わず笑ってしまう。一弥の顔を見たい気もしたけれど、それより今は、この背中を眺めていたかった。闇でしか現れてくれない、さり気ない透明な翼を。
僕もいつかなれるだろうか。この人の天使に。柔らかな大きな翼で、包んであげる事ができるだろうか。
そして大事な何かを、伝える事が。
「ねぇ一弥。いつも誰とメールしてるの?」
疑問に思って訊いてみる。
一弥に笑顔を浮かべさせられているのは、いったい誰なの?
「ん? 見るか?」
一弥は携帯を開くと、僕へと画面を向けた。
『その時にね、天使様が言ったんだ。「汝、案ずる事なかれ」だって。だから、大丈夫だよ』
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