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第4話
夢のようだと市村は笑った。
でも夢にされたら困るので、現実だと教えるように抱き締めた。
「ほ、星川……苦しいって………」
「苦しいだけ?」
「…恥ずかしい………」
「じゃあもっとしよう。」
さっきまで泣いていたくせに、今度は恥ずかしそうに顔を赤くして腕の中でジタバタと暴れる。
こんなに色んな顔をするのか。
全部知っているつもりになってたんだな。
「そ、そんなに見ないでくれよ……恥ずかしい……」
「そればっかだな。」
やけに恥ずかしがる市村に苦笑すると、インターフォンが来客を知らせた。
そう言えば予定があるって言ってたっけ……。
「来客の予定だったんだな、悪かった。今日は帰るよ。」
「え、ちょっと待っ――」
身体を離すと市村は慌てたように俺に手を伸ばす。
「大丈夫だって、時間はこれから沢山あるんだから。ゆっくりやっていこう。」
軽く頭を撫でて、ドアノブへと手を掛けた。
「違っ、そうじゃなくて――!」
伸びてきた手が俺を止めるよりも、ドアを開く方が一瞬早くて、そこには若い男性が一人佇んでいた。
「お待たせいたしました、ゲイデリヘル専門店69 の創 です。本日はご指名ありがとうございます。」
「………………は?」
若い男はニコニコと営業スマイルを浮かべ、ご丁寧に名刺まで差し出している。
今何て言った?ゲイ?デリヘル?
「あれ?ご予約いただいてましたよね、市村様?」
「ほーう………」
後ろで頭を抱えている市村の様子から、しっかりと心当たりはあるようだ。
「申し訳ない、こちらの手違いだったようだ。キャンセルをお願いしたい。キャンセル料はいくらかな?」
「ん?んー……」
男はチラリと市村の方を一瞥して、何かを悟ったように頷いた。
「そうでしたか。ではキャンセル料はこちらになります。」
掲げられた明細に記載された金額を財布から取り出して男に渡すと、サービスです、と小袋を二つ手渡された。
「………使いきりローションとゴム。」
「では僕はこれで。次回のご予約お待ちしております。」
颯爽と男は立ち去り、ドアと鍵を閉めて後ろの市村を振り返る。
「…………で?どういうことだ?」
「うっ……えっと…その、」
「まさかこれがさっき言ってた努力ってやつじゃないだろうな?」
言葉に詰まる市村。
どうやら図星のようだ。
「お前な…」
「だって仕方ないだろ…まさかこんな事になるなんて思ってなかったし、何とかして諦めなきゃって思って…」
「だからって簡単に男に股を開くのか、お前は?」
「なっ、そんな言い方しなくたって……俺だって、悩んで……」
きゅっと結ばれた唇に、頭を抱えて溜め息を溢した。
「……ごめん。」
「…いや、俺の言い方も悪かった。けどムカつくものはムカつく。」
距離を縮めて、市村の腕を取る。
「ゆっくりって言ったけど、やめた。」
「え………?」
「アイツとやるつもりだったなら、俺がしたって良いだろう?」
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