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そっと隠した、愛のことば(3)

「直人」  二人で俺の家へと帰り、スーツから部屋着に着替えた俺たちは、舞島が買ってくれたマグカップにココアを淹れていつもと変わらずベッドサイドに二人で並んで座る。普段はセックスの時だけ口にする、彼の名前をあえて呼べば彼はゆっくり俺へと視線を向ける「ん?」小さく首を傾げて笑みを浮かべる彼に、俺はラッピングされた小さな紙箱を彼へと渡す。「俺も、用意してたんだ。冬休みは帰省しないとだから、今のうちに渡しておこうと思って」今日から始まった冬休みは年明けまでで。明日実家に戻る予定であった俺はクリスマスを舞島とは過ごせない。クリスマスが終わってから帰ると実家に伝えたのに、親戚付き合いが云々と却下されたのだ。夏休みに帰省しなかった俺は親の帰省要請に押し切られてしまい、クリスマスを過ごせないと舞島の前で項垂れたのは数日前の事だった。そんな俺に「俺らキリスト教徒じゃないし、ケーキ食べるだけなんだから別にそこまで項垂れなくても」と舞島は呆れたように笑っていた。 「じゃぁ、今日が俺たちとしてはクリスマスって事で」  ケーキはないけど、なんて数日前の自分の言葉を蒸し返しながら口にした舞島は、丁寧な手つきで包装紙を開いていく。そんな彼の指先を見つめながら俺は自分が選んだプレゼントが彼の好みである事を心の中でだけ祈っていた。「あ、」思わずと言ったように零された声には、少しだけ弾んでいて。包装紙の下に印刷されたロゴに、プレゼントが何であるか気づいたらしい彼は口元に笑みを浮かべてその紙箱の蓋を開ける。紙箱の中央に嵌め込まれた鈍い光を放つ銀色の金属を指先でそっと持ち上げてシンプルなデザインのそれをそっと撫でた彼は「買おうかどうしようか迷ってたんだ」と俺へ嬉しそうに笑みを浮かべた。俺が世界一有名だと思っているメーカーのオイルライターをプレゼントに選んだのは、間違いではなかったらしい。その事に安堵した俺は「ジッポーでタバコ吸ってたら格好いいかなって思って」なんてそれを選んだ理由を告げる。まっさらな表面の隅に彼のイニシャルだけが刻印されたそれは、シンプルなデザインの服を好んで着ているように見えた彼に似合うと思ったのだ。そして、こっそりとその中の部品には短い愛の言葉を入れてもらった。大っぴらに言えないような俺たちの関係には、きっとこれくらいが丁度いいのだろう。本当はペアで身につけれるようなものを欲しいと思ったものの、そこまでを彼に望んで拒絶されない自信がなかっただけなのだけれど。 「明日、オイル買って帰らないとな」  少しだけ弾んだように聞こえた彼の言葉に、俺は思わず舞島を腕の中へと閉じ込める。「いきなりだな」少しだけ楽しそうな彼の言葉に「逸る気持ちが抑えきれず?」と言い訳じみた言葉を告げて、俺たちは何方からとなく唇を合わせる。すっかり深い口付けにも慣れた舞島は、最初の頃からは考えられないくらい積極的に俺の口腔へと舌を絡ませてきてくれて。彼の舌を味わうように俺のそれと擦り合わせながら、俺は彼の頬へと手を添える。角度を変えて、何度でも繰り返すそれに舞島が焦れたのか、勢いだけで俺をベッドの上へと倒し込むのだ。力では多分、俺は舞島には敵わない。彼と身体を重ねるようになってから少し経った頃に、彼の鍛えられた身体はどのようにしてできたのかを訊いた事があったのだけれど、その話を聴く限り彼は武道の有段者であった。何でも家の方針で彼と彼の妹は幼い頃から格闘技の道場に放り込まれていたらしい。妹の方は数年間だけで辞めたそうだけれど、彼はすっかりハマったらしく高校卒業までずっとやっていたというのだ。俺の上で笑みを浮かべる彼は、どこか楽しそうに俺を見つめる。「たまにはこういうのもいいだろ?」甘やかな声でそう口にして笑う舞島に、俺は笑って言葉を返す。「最高だね」俺の言葉に気を良くしたらしい彼は、熱を帯び始めた視線で俺を見つめる。「クリスマスプレゼントは俺、ってな」少々おっさんくさいセリフを吐いて彼の指先は俺のズボンへと掛けられた。前を寛げて、下着から俺のものを取り出す彼の手つきは早急で。それ以上に服を脱がすこともなく、彼は俺の男根へと舌を這わせる。俺の感じる場所を的確に舐め上げ咥えこむ彼の刺激に先走りが出始めた頃、彼はズボンを脱ぐのにすら焦れたのか中途半端にズボンと下着を一気に下げて自身の後孔を自分の指先で解し始める。その手慣れた手付きに「一人でする時も、後ろ使ってる?」と訊ねてみれば、彼はうっそりと笑みを浮かべながらも冗談を言うような声色で「癖になった。どうしてくれる」なんて言葉を返すのだ。「癖になるようにしたんだよ」そう口に出せば「だろうな……っ」なんて彼は溶け始めた瞳で俺を見つめる。「でも、嫌じゃない」重ねられた言葉は、彼が俺から離れないようにと快感を染み込ませさせていった狡い俺を肯定してくれる言葉で。俺は、何度彼の言葉に救われるのだろう。この砂上の楼閣を赦してくれる彼との未来が少しでも長く続く事を祈りながら、俺は彼へと愛を告げる。 「直人、好きだよ――愛してる」  ストレートに告げた俺の言葉に、彼は小さく笑って「俺も」と口にしてくれる。そうして彼は俺の欲の先端へと小さな口付けを落としてから舞島の足の半ばで中途半端に絡む布を取り去った。そのまま彼が俺のものへと腰を沈めようとしたのを見て、俺は思わず声を上げる。「まって、ゴム!」いつも違わずに被せていたそれを取ろうと彼の下で身動げば「いらない」という一言で彼はそのまま俺のものをその孔で呑み込んでいく。ローションの滑りも借りずに俺の欲望を咥え込んでいく舞島の中は、いつもよりキツく――いつもよりも熱くて。「――は、……でか……」熱い吐息と共に溢れる彼の言葉に、セーフセックスの重要さを説こうとしていた筈の俺は思わずTシャツ越しの彼の腰を掴みそのまま最奥を目指すように自身を突き入れてしまう。彼は喉を晒して喘ぎ、いつもより深いと頭を振っていた。「や、」高く掠れた声が俺の耳に届く。いつもよりも荒い動きで果てを目指しながらも俺は「でも、気持ちいでしょ?」と問いかける。「いいけど……っ! こんな、……しらな……ぁっ!」いやいやと頭を横に振りながらも、俺の上で背を逸らす彼を逃げないように腰を掴み彼の浮かぶ腰を引き戻す。服もほとんど着たままで、いつもよりも肌が触れ合う面積が少なくて。けれどそれがむしろ興奮材料になっていた。彼の男根が胎内で得る快感に勃ちあがるのを見ながら、俺は彼の奥を目指して何度も自身を突き入れる。いつもより激しいそれに、彼の中はキツく俺を包み込み俺は危うく彼の中へと精を撒き散らしそうになる。「まっ、出るから」俺の声にさらに締め付けがキツくなった彼の中から慌てて俺を抜き出せば「中でいい!」と高みに行き損ねたらしい舞島の言葉が投げられる。「今日はこのまま、一緒にイこ」彼を宥めるように俺は自身と彼のそれを一緒に握り、擦り合わせるように腰を振りながら二人分の性器を手で擦り上げる。「はっ……っぁ!」舞島の喉から漏れた声と共に、俺たちの精は混ざり合いながら互いのシャツを汚していった。

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