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拝啓、北国より(3)
ずるり、と彼の中から俺のものを抜き出せば、ごぽり、と俺の残滓が彼の中から滴り落ちてくる。烈しい抽送で何度も吐精した俺の欲が、重力によって彼の腿を伝う。「っ――はぁ……」快感が抜けないのだろう彼は、崩れ落ちるようにしがみついていた壁を伝うように床へと座り込んでいた。吐精もせず何度も高みへと昇っていた彼のものからは、トロトロとその欲がこぼれ落ちてフローリングを汚していった。「激しすぎ……」非難なのか感想なのか判別が付きにくい声色で、小さく溢された彼の言葉の端々に、快感の色が残っていて。前も後ろも精で汚れた彼の姿に、再び欲が擡げてしまいそうになるのを抑えて俺は自身をジーンズへと押し込んだ。「直人、立てる?」あられもない姿で座り込んでしまっている舞島へ落とした俺の問いに、彼は試す事もせず即座に「無理」と答えを返した。抜かずに何発ヤったかも覚えていないくらいの無体を働いた自覚のある俺は、周囲を見回す。とりあえず彼の剥き出しになっている肌を隠すためにベッドの上に置いてあったバスタオルを掛けた俺は、バスルームへと走る。そこにあるフェイスタオルで暖かなおしぼりを作った俺は彼の元に戻り、彼のものと後孔を汚す二人分の精を拭っていく。中に残ったそれらを出す為に彼の中へと指を挿し入れれば、彼は小さな嬌声を漏らす。未だ自身の得た快感によって敏感になっているのだろうそこを刺激するのはお互いにキツいものがあったけれど、これをしなければ明日の舞島が地獄を見る。足腰が立たないままの彼は、俺のされるがままになっていて。慎重な俺の指先によって彼の後孔から掻き出された欲がフローリングとバスタオルを染め終えた頃、彼の男根は再び勃ちはじめていた。「感じちゃったかぁ」俺の言葉に「誰がそうしたと……」と今度は非難の色が強く出ている彼の言葉に俺は素直に頷く。「俺だね――ていうか、俺じゃなかったらヤだな」少し冗談めかした口調で口にする言葉に、彼は小さく笑みを零す。そして、その次の瞬間には笑みを溢していた唇から甘い喘ぎを漏らしていた。
「――っぁ、ばっ、か」
俺が、彼の先端に口付けたからだ。彼の後ろの入り口を指先で軽く刺激しながら俺の口の中へと招き入れた彼のものは硬く――熱くて。彼自身の手と、俺の手――それから俺の口の中しか知らない彼のものは、俺の与える刺激を素直に受け入れてびくりと震える。絞り出すように吸い出して、唇で扱き上げた彼のものは、程なくして薄い欲をびゅる、と吐き出していった。それを飲み下した俺を見る彼に、精の味が残る口の中を見せれば頬を更に染めた舞島は消え入れりそうな声で「ばか……」と口にした。
「お前だってデカくしてるくせに」
不貞腐れたように重ねた彼は、ジーンズに押し込めた俺のものへと指を伸ばす。指先でつう、と撫であげられた俺の中心はその期待に揺れてしまい俺は彼から距離をとろうとしたけれど、それよりも彼が俺の足を掴む方が早かった。
「俺もやる」
強い口調で告げられたそれに、彼は力強い手付きで俺の両足を割りジーンズを寛げさせていく。ぼろん、と外気に触れながらその存在を主張する俺のものをべろりと舐め上げた彼は、リップ音を響かせて俺の先端に口付けを落とした。丸出しになっている尻を上げて俺のものを唇で扱き上げる彼の姿は、あまりにも扇情的で。視覚からも、触覚からも快感を与えられる俺のものが果てるのは早かった。「――うっす」俺のものを喉を鳴らして飲み下した彼は小さく笑いながら俺の吐き出したものの感想を口にする。異国のホテルの部屋で、ベッドにも辿り着けずに玄関先でこんな事をしている自分たちがどこか可笑しくなって、俺たちは笑う。「マジで足腰立たねぇんだけど、どうしてくれる」笑いながらそう文句を言う彼に肩を貸した俺は、力の入らない舞島に引き摺られるようにヨロヨロとした足取りで何度か転びながらもベッドの上に飛び込んだのだ。
「愛してるよ」
二人してボロボロになりながら、ベッドにダイブした俺は彼にそう告げる。一人はあちこちに打ち身を作って、もう一人はその上中途半端に脱げているジーンズに足を絡められて股間を晒したままの姿で。間抜けな絵面で告げた愛の言葉はどうにも格好がつかなかった。それでも舞島はゆっくりと美しい笑みを浮かべて俺へと告げた。「俺も、愛してる」と。
結局、出発までの時間をベッドの中で消費してしまった俺たちは、慌ただしくレヴィを後にしてロヴァニエミへの二時間強の車の旅を楽しむ。俺よりも体力があるのだろう舞島は腰が痛いと言いながらも今日の目的地に到達すれば軽快な動きで背を伸ばしながら「長かった」なんて楽しげに口にするのだ。座りっぱなしで固まった関節が、俺の体中でバキバキと音を立てていた。朝も昼も摂りそびれた俺たちが、のんびりと遅すぎるブランチを楽しめばホテルのチェックイン時刻がやってきて。そのままホテルの部屋へと入れば外に出る気も失せてしまう。もう外になど出るものかとでも言うように、寝巻きにしているスウェットに着替えていた舞島はシングルをくっ付けて作られたダブルベッドの上に寝転びながら携帯を弄る。「昨日の写真、出てるな」椅子に座っていた俺にベッドの上から携帯画面を見せようとする舞島へと向かえば、その画面にはソーシャルネットワークサービスのアプリが開かれていて。そこに映し出されていたのは、昨夜ガイドに撮ってもらった俺たちの姿だった。光の帯の下で肩を組んで笑う俺たちは、恋人同士というよりも親友同士で。そんな光景に少しだけ寂しさを感じながらも、俺も彼と同じように携帯を操作してその写真をダウンロードする。メモリに入ったその写真は、俺たちが二人で映る唯一のものだった。「日本帰ったら、プリントアウトしよう……」決意を込めて呟いた言葉に、彼は小さく笑みを零して「俺も」なんて言葉を返した。そんな彼の頬にキスを一つ、そうすれば彼も同じように――今度は俺の唇に触れるだけのそれを贈ってくれて。「――準備してくる」ボソリと呟いた彼の言葉に、俺は彼の手首を掴む。「今日は触るだけにしよ」ぐい、と引き寄せれば俺のされるがままに腕の中へと戻ってくる彼は「ん、」と小さな声と共に頷いて。抱き合うでも布越しに熱が伝わってくる。「――そういや、ちゃんと使ってくれてんだ」俺の左手首に巻きついたままのそれに視線を向けた彼は嬉しそうに笑みを浮かべる。革のベルトが馴染んできた俺の手首は、小さく時を刻む音を立てていた。舞島はその革をゆっくりと撫でてから、恭しげにそのバンドを緩めていく。ベッドサイドに置かれていた俺が彼へ送った時計の隣にそれを置けば、彼は俺の元へと飛び込んできて。「――抱き合うだけじゃ、やっぱ足りない。明日は、寝台列車なんだし……ヤろうぜ」うっそりとした笑みを浮かべて俺に告げる彼に、今日は無理をさせたくないと思っていた俺の決意なんてすぐに何処かへ消えていって。「洋哉の、俺の中にぶち込んでくれよ」誘いかけるように、色を帯びた声が俺へと届いてくる。いくつもの金属で飾られた彼の耳朶を指でなぞれば、彼は擽ったそうに笑みを浮かべて熱を帯びた吐息を漏らす。
「――って事で、準備してくるから」
そう言って彼は、ゆっくりと俺の腕の中からすり抜けていった。
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