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拝啓、北国より(6)

「――たりない、もっと欲しいんだ」  ポツリと独り言のように呟いた彼は、俺のものが抜け出してぽっかりと空いてしまった後孔を確かめるように指を伸ばし溢れ出す俺のものを胎へと戻すように挿し入れていって。無意識なのだろう彼の自慰行為に、俺は目を離せなくなっていた。「ひろやぁ」甘えたように声を上げる舞島を作ったのは、確かに俺で。昼間はあまり表情を変えない、セックスなんて知らないような顔をする、この美しい男が、男に犯される事を良しとするように――尻の孔で快感を得て、あまつさえ吐精もせずにイけるような身体を作り上げたのは、間違いなく俺の所業であった。「まだ、足りない」淫猥な笑みを浮かべた舞島は、快感に震える身体で俺の肩を掴みながら起き上がり、その反動を使って今度は俺をシーツの上へと押し倒す。俺はそれに逆らう事はしなかった。ベッドの上で横たわる俺の上に跨る舞島は、硬さを保ったままの俺を掴んで口元に緩い笑みを浮かべる。「まだ、いけるだろ?」彼の中から零れ落ちる白濁が、俺の屹立へと落ちていく事を感じた。「えっろ……」思わず口から出てしまった俺の言葉に、舞島は小さく笑って言葉を返す。「エロくしたのは、お前だろ……っぁ……、はいってくる……」感じ入ったように声を零しながら、彼はその形良い尻で俺を咥え込んでいく。窓から降り注ぐ月の光に照らされた、舞島の姿はどんな体液に塗れてもその美しさは損なっていなくて。彼の双眸からこぼれていった涙の痕も、緩んだ口元から溢れる唾液も――彼の腹を汚す精液も、その瞬間は彼を引き立てるアクセサリーでしかなかったのだ。「直人、愛してる」自然と溢れた俺の言葉に、彼は俺の根本までをその肉襞で包み込みながら俺へと笑みを浮かべる。「――おれも」新たな涙を零しながら、そう口にした彼は、俺の上で腰を振っていた。「――ぁ、あぁ……っ、イイ……っ」一心不乱に、高みを目指す彼は、俺の脇腹を握りながら自分の律動で高みへと向かっていく。そんな彼の腰を掴み、奥へと腰を突き入れれば彼は一際高い嬌声をあげながら背を逸らした。倒れそうになる彼を、俺のものと腰を掴んだ手だけで支えた俺はそのまま彼の中を堪能するように抽送を続けていく。「きもちい、……ひろや、……ぁっ、ふ、っく、」きっと、何を口にしているかも分からなくなっているのだろう彼から溢れる嬌声と熱い吐息で、間違いなく彼が快感を得ている事を確かめて。彼が高みに昇れば昇るほど、締め付けられていく彼の中で果てが近い事を感じる。「イっちゃ、っ……ぁあっ……」びくり、と身体全体を震わせた彼は、薄い欲をその先端から少しだけ吐き出して俺の中を締め付け、彼が与えるその刺激に俺のものも舞島の胎の奥に精を注ぎこむように爆ぜた。 「――ひろや」  ずる、と俺のものを抜き出した彼は、力を失ったようにぺたりと俺の上へと肌を重ねる。蛇口が壊れたように流れ続ける彼の涙を戯れに舐め上げた俺に、擽ったそうな笑みを浮かべた彼は俺の唇に口付けを落とした。舞島の涙の味がするキスを、ゆっくりと堪能した俺の耳元で、彼は囁くように唇を開く。口を薄く開く小さな水音すらも聴こえる距離で、彼は確かに俺へと告げたのだ。 「東京で、良いヒト見つけろよ」  それは、俺の失敗と彼の戯れから始まった歪な恋が終わる合図であった。きっと、この旅が終わり日本に戻れば、俺と彼はぎこちない友人の距離に戻ってそれぞれの日常に帰るのだろう。俺は東京で――彼は札幌で。俺の上に覆いかぶさる彼の言葉以外、どこにも別れの気配なんて見つける事が出来なかった俺は、それでも彼の言葉を拒絶する事が出来なかった。舞島が終わりにすると口にした時には従うというのが、告げる予定もなかった愛の言葉を受け入れてくれた舞島に対しての感謝であり俺が最初から決めていたルールだったから。けれど、実際の俺はそんな粋な人間ではなくて。せめて嫌だとは口に出さないようにだけして、彼の言葉に頷く事など、出来やしなかった。 「――ひろやっ」  無言で舞島の身体を押し除けて彼の背へ跨った俺を非難するように彼は俺の名を口にする。「――さいごなら、もう一度だけ」うつ伏せに寝そべる彼の上に覆い被さりながら、俺のものを零す後孔へと屹立を突き入れる。快感に耐えるようにシーツを握る彼の指が、俺を迎え入れる彼の胎が、甘く上がる快感の声が――その全てが決して俺を嫌いではないのだと叫んでいるようで。俺は叫び出しそうになる彼の言葉への疑問を必死で呑み込んだ。その代わりに俺は、壊れたオモチャみたいに何度も舞島への愛を口にする。この夜が終われば、もう口から出す事は出来なくなるのだろう一生分の愛の言葉を、必死で彼へと投げていった。彼の身体はびくびくとその言葉に反応するように快感を拾ってくれるのに、舞島は嬌声を上げるばかりで――無意識にでも、俺への愛の言葉を返してくれる事はなかった。枕に顔を埋めてくぐもった嗚咽と嬌声を零す彼の身体をまるでレイプみたいに蹂躙した俺は、この夜を終わらせたくなくて。俺は彼の首筋へと両手を巻きつけていた。「――ぅ、ぐっ……」彼の呼吸と血流を遮るように、力が込められた俺の指先は彼の首へと喰い込んでいく。それが生命を奪う行為だという事は、頭の何処かで理解していた。それでも、俺はこの夜が終わらないのなら、彼を殺して自分も死んで構わないと――確かにその瞬間、強く願ってしまっていた。酸欠に苦しげに喘ぐ彼は俺のものをその肉襞でキツく締め上げ、俺はその刺激で果ててしまう。射精と同時に緩まった俺の手から抜け出した彼は、苦しげに咳き込んでいて。「――っ、ごめん」その行為が彼を殺す事はなかったけれど、今更ながらに自分が舞島に苦痛を与えてしまった事を理解する。ずる、と抜けた俺のものは萎え切って。彼のぽっかり空いた後孔がひくりと蠢き続け、俺の汚い欲を溢していた。 「――いいよ」  掠れた声で、舞島は一言だけポツリと呟いてから限界というように目蓋を下ろしていった。意識が途切れる間際に出たその言葉は、きっと無意識のものなのだろう。彼の首に残る俺の殺意が、俺がやろうとした事を罪状のように突き立ててくる。意識のない舞島が、まだちゃんと息をしている事を確かめた俺は、声を殺して泣きながら俺が汚した彼を清めた。それが、俺が舞島に出来る最後の事だったから。

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