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第9話

「ここ、か」 俺は、メモを片手に建物を見る。住宅街にあるこじんまりとした木造のカフェ。 ドアの横に立ててある黒板ボードには、本日のランチメニューやらがイラスト付きで書いてある。 俺は、唾をゴクリと呑むと、店のドアを開けた。 「こんにちは~!僕~日谷愛です!」 「それで来ると思ったわ。愛」 腕を組み待ち伏せしていた相手がやはりと言うように笑った。 俺は目の前にいる相手を睨みつける。そして、カバン紐を握り、身構えた。 目の前にいるのは、ポニーテールの美人店主ではなく、ごりごりのオッサンだ。 まぁ、ポニーテールは合ってるけど、、、。 「早速だけど、着替えて貰うわよ、、フフフ」 「い、いや、嫌だあああああ」 1日前。 「お、おじさん。あのさ、友達がバイト探してるらしいんだけど。、、、ここら辺でそういうとこない?」 久々に話しかけるものだからよそよそしくなってしまった。おじさんは、驚いた表情を見せたが、柔らかい笑顔で答えた。 「ああ、それなら秋二が店をやってるから、連絡してあげようか?たしか、人手が足りないって言ってたから」 「いや、連絡はいいから、番号だけ教えて」 「そう?じゃあ紙に書くね」 おじさんは、メモ用紙に番号を書いた。渡された紙を俺はポケットにしまうと、「ありがとう」と小さく礼を言って、自室に戻った。 おじさん、ごめん、、、。 友達じゃなくて俺がバイト探してるんです。そもそも、友達いないし。 俺は、早速電話をかけた。 「はい」 電話から聞こえてきたのは女の人の声。バイトをしたいと話すと、とりあえず明日店に来てくれと言われた。 秋二にはあんまり会いたくないが、、、この場合仕方ない。 がんばって、新しい服とグッズを買うぞ! それから現在。 「いい!いいわね!」 秋二が何枚も色んな角度から連写してくる。 「くっそぉ」 せっかく朝メイクをしてきたのに全ておとされ、カツラも取られた。 そして、、。何故か黒いハーパンをはかされた。シャツの上にワインレッドのジレ、首元には黒のリボンが絞められている。 「これ、なんだよ」 「いつか愛が来てくれると思って用意しておいた制服よ、制服!」 「どこが制服だ!大体こんなやつ、俺が来たら気持ち悪いって言われるに決まってんだろ!」 「愛!」 いきなり秋二が真剣になった。 「これは、仕事よ」 俺は、ハッとした。いつしか、聞いたことのある母の声を思い出す。 「いい?愛。仕事って言うのは自分が嫌と思うこともやらなきゃいけないの!だから、何事にもガッツよ!愛」 「わ、わかってるよ!」 小さい頃、幼稚園の劇で好きな役になれなくて泣いていたら、かけてくれた母の言葉。俺は、恥ずかしくて怒ることしかできなかった。 そうだ、、、。何事もガッツ、、。 「わ、分かった。これ来て仕事する。」 「やーん。そういってくれて嬉しいわ~!じゃ、早速仕事について説明するわよ!」 俺は、急いでメモをとった。 この店は、大人でも気軽に入れるクラシックで落ち着いた雰囲気の店らしい。ちなみにお店の名前が「黒ウサギの家」なので、店員には秋二の作った大人ロリータ系の制服を着せられる。  その後は、店員の紹介をしてもらった。女の人は、落ち着いたロングスカートのメイド服を来ている人が1、2、、、、、。 「こ、これで全員ですか?」 「?そうよ」 お、男、俺しかいねーじゃねーか!!

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