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第13話
「日谷~、お前、ゲーム苦手やったんやな」
にやにやと笑い岩野が言った。俺と、岩野は、結果発表の画面を見ていた。岩野のランクはA俺はD。
どうしてこうなるんだ。
「もう一回だ!」
「えぇー!またやるん?」
「るさい」
俺は、百円をゲーム台に入れた。岩野も、渋々自分の財布から百円をだす。
「負けず嫌いなんやな~!」
「別に、そんなんじゃねぇよ。」
ゲームスタートと書かれた文字をタップする。音楽に合わせてボタンを押す、が、全然押せない。
いつも、あれ?どこいった?となり、次のボタンに間に合わなくなる。
結果は、またさっきと同じになってしまった。隣でニコニコしている岩野に腹が立つ。
「もう」
「それもうアカン!」
もう一回だ!と言おうとしたら、岩野に口を抑えられた。
「もう時間なくなるから違うゲームやろう。あ!シューティングゲームとか!」
岩野は辺りをキョロキョロして、見つけたゲーム台を指差し、俺の返事も聞かずゲーム台に向かって歩いていった。
こいつ、マイペースなとこがあるな。
俺は、ゲーム台の横にある籠から鞄を取り、岩野の方へ歩く。苛立ってカツカツと音を立てて歩き、クレーンゲームコーナーの前を通った。ふと、クレーンゲームの景品に目が止まる。
フワフワした熊のぬいぐるみ。大体腕で抱き締められる中くらいのぬいぐるみだ。真っ白い毛にピンク色のリボンを首につけて、つぶらな瞳でこちらを見ている。
か、可愛い、、、。
「どうしたんや~?日谷。」
中々、俺が動かないので、岩野がやってきた。俺は、はっとして前を見ると、岩野がニヤニヤしながら俺を見てきた。
「それ、欲しいん?」
「別に要らないし。」
「はー。ツンデレさんやな~。ちょっと、どき」
岩野は、うれしそうに溜め息をつくとクレーンゲームの前に立ちお金を入れた。
「いらないって!」
「まーまー。ちょっと待ち」
俺は、慌てて止めたが、岩野は落ち着いた口調でクレーンゲームのバーを動かした。クレーンが熊の上に来て、岩野はボタンを押した。すると、熊がクレーンに捕まれて上まで上がる。
「お!これ、いけるんちゃうか!」
岩野は、食いぎみに中を除く。しかし、上にきた振動で、熊はスルッと落ちてしまった。
「ほらな、クレーンゲームなんてそんなもんだぞ。」
俺が呆れて岩野に言うと、岩野は振り返り目を輝かせ、
「俺!コツ分かったかも。」
とウィンクした。
本当だろうか。俺は、目を細めて岩野を見た。その顔は、自信に満ちている。
まぁ、俺がやるわけでもないから、心配する必要はないか。
お金を入れて、二回目の挑戦。またしても、落ちてしまったが、少し四角の穴に近づいた。
「いける!」
何か確信した岩野は、またお金を入れた。そして、三回、四回、五回。ぬいぐるみは、全く動かない。
「もう諦めたら?」
「いやや!絶対取る。」
岩野の意思は固いようで、全然諦めようとしない。
六回目、上に持ち上げられるぬいぐるみ、横にスライドして、あとちょっとのとこで落ちた。
「うおー!」
「あー。惜しい。」
気づけば、俺は声を出していた。もしかしたら、ぬいぐるみがとれるかもしれない、そう思ったら胸が熱くなった。
七回目、上に持ち上げられた人形はそのまま持ち上がり、
「いけー!入れー!」
手に汗が滲む。俺は動くクレーンをじっと見ていた。岩野は、手を合わせて祈っている。
そして、
ぬいぐるみは、ごとっと穴の中に入った。
「き、きたーーーーーーー!」
「おーー!」
俺は、岩野の横にかけよった。岩野は、ぬいぐるみを取ると、俺の前に掲げた。
「はい!これ、日谷にやる!」
「え?」
岩野は、俺にぬいぐるみを渡した。もふもふしていて肌触りが気持ち良い。
「ははっ」
「な、何だよ。急に笑って。」
「いや、ようやく日谷が笑ってくれたと思って。」
「う、うっせーよ。」
俺は、熊のぬいぐるみで顔を隠した。
ゲーセンを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「なぁ、日谷」
急に、岩野が話しかけてきた。
「何だよ」
「これから、タニってよんでええ?」
「なにそのダッサイネーミング」
「ええやん。俺のことは、ノブって呼んでな!」
「はぁ。人の話、ちゃんと聞けよな」
「これからよろしくな!タニ。」
そう言うと、岩野は右手を差し出した。今まで、誰かと握手なんてしたことがない。
でも、、、。
色々やったゲームの時の事を思い出す、楽しい気持ち、自然に笑えてきた。
俺は、ふっと笑って手を握る。
「ま、気が向いたらな。ノブ。」
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