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第14話
バイト帰り。
店を出ると、辺りはオレンジ色に染まっていた。
俺は首をパキパキとならす。
「つーかれたー。」
今日は休日なので客が多く大忙しだった。帰りに近くのスーパーに寄って今日の夕飯の具材を買う。
バイト終わりでも必ず女装してから帰る。パートのおばさんに、「今日も美人ね」と言われ、俺は鼻歌を歌いながら、住宅街を歩いた。
静かな道を歩いていると、どこからか声が聞こえた。
「うっぐ、えーん」
公園から泣き声が聞こえ、中を見ると、広い公園の真ん中に小学生くらいの男の子が泣いていた。
あまり人を助けるタイプではないが、さすがにこんな時間に小学生が一人でいるのは危ない。
俺は、男の子に近づいた。目の前にしゃがむと男の子は顔をあげた。大きな青色の瞳を揺らし、涙をボロボロと流して、声を震わせながら聞いた。
「お、お姉さん、誰?」
「愛だよ。こんなとこで、どうしたの?」
俺は、安心させるように学校のように声を高くして、ニコニコと笑った。
だが、男の子は泣いたまま何も話さない。それどころか、どんどん泣き声が大きくなっていく。
これでは、俺が何かしたみたいに見えてしまう。
俺は、鞄の中からクッキーを取りだし男の子の口に入れた。男の子は、最初驚いていたが、口を動かすとだんだん涙が止まっていった。
「これ、あげる。美味しいでしょう。」
俺は、クッキーの入った袋を渡した。秋二の店で買った新商品だ。男の子は、鼻をすすって、目元を赤く染めていたが涙は流さなかった。
「お母さんかお父さんは一緒?」
「ううん。」
男の子は、小さく首を振った。辺りはすでに暗くなっている。
「お家、分かる?」
「うん」
「危ないから、お姉さんと帰ろうか。」
俺は、手をさしのべる。男の子は、素直に手を握った。
「お名前は?」
「伊神 亮です。」
「亮くんか。お家は近く?」
「うん」
それから、特に話すことなく亮くんの家に向かった。亮くん家は、歩いて三分程で着いた。
家は、灯りが灯っていない。親は留守なのだろうか。俺は、亮くんと目線を合わせるため、しゃがんだ。
「亮くん。ママとパパはお仕事?」
「うん。出張で一週間帰って来なくて、お兄ちゃんは出かけてて。」
「、、、、そっか。」
立ちあがると、亮くんは、服の裾を引っ張った。
「行かないで。」
うるうるとした涙目で、見てくる。俺の心にズキンと痛みが走った。多分、それは自分も亮くんと似ていると思ったから。
「亮くん。夜ご飯はどうしてる?」
「えっと、冷凍食品。」
「じゃあ、お姉ちゃんがご飯作ってあげるよ。」
「本当!」
曇っていた亮くんの顔がぱぁっと笑顔になり、俺の手を引っ張って、家に入れた。
亮くんのお家は大きくて、何だか落ち着かなかった。亮くんは、すっかり元気になって色んな部屋を一つ一つ紹介してくれた。
それから、俺はキッチンに連れていってもらい、スーパーの袋を置いた。
「今日は、カレーにしようか!」
「本当に!やった~!」
俺が料理を作っている間、亮くんはおとなしくテーブルで宿題をしていた。
そういえば、夏休みの宿題って昔はほったらかして外で遊びまくってたな。ああ、あと秋二の着せ替え人形になってたっけ。昔もよく短パンはかされて、地獄だったな。
俺は、カレーを煮ている間、亮くんにずっと聞きたかったことを聞いた。
「亮くんはさ、なんで公園で泣いてたの?」
亮くんは、少し顔を曇らせた。直球過ぎたか。俺は焦ったが、亮くんは泣くことなく寂しそうな目で言った。
「僕、友達と遊んでたの。でも、帰る時間に皆、パパやママと帰るのに、僕は一人ぼっちで、、、、、、パパとママに会いたくなったの。お仕事頑張ってるのは分かってるんだけど、、、」
「お兄さんは?」
「いつもどこか遊びに出かけてるんだ。どこに行っているのかは知らない。」
亮くんは、ちょっとだけ不機嫌に言った。お兄さんの事が嫌いなのだろうか。
それにしてもこんな小さい男の子をおいて遊びにいく兄って最悪だな。夕飯ぐらい作ってやれば良いのに。亮くんは、成長期なのだからかたよった食事は、あまり良くない。
俺は、カレーを盛り付けて、亮くんの前に置いた。
「わー!良いにおい!」
「召し上がれ。」
「いただきまーす!」
とびきりの笑顔を見せて、カレーを食べる亮くんを見て、味が合ってよかったと思った。一回、お兄さんに注意するのも良いかもしれない。こんな愛らしい子を孤独に育てるのは絶対にいけない。
孤独は、一番辛いものだから。俺だけが感じていいものだから。
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