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第3話 こころづく①
進と乾が初めて身体を重ねた日から数日がたった。
夏の暑さはどこかへ消えて、秋の足音がすぐそばまで来ている。
あの日以来、二人の距離は以前に比べて近くなった。
しかしあくまで普通の友人関係のままだ。
進は乾のことを当たり前のように『五月』と呼ぶようになった。
清瀬と付き合っていた時は恥ずかしくて、結局苗字で呼ぶ方が多かったのに・・
五月にはそういう気恥ずかしさがなかった。
きっと五月には身構えなくていい気軽さがあるのかもしれない。
そして何より、身体を重ねても彼から感じる視線が変わらないことが大きかった。
熱を孕むものではなく、ただゆっくりと暖めるような優しい視線。
このまま五月とは良い友人関係でいたい。
進は改めて心の奥で願った。
十月中旬、中間テストの準備期間に入った。
勉強に専念するためその期間は部活動が禁止されている。
そのため普段は放課後部活動で忙しい生徒も、皆下校のチャイムが鳴ると早々に帰る用意を始めた。
「清瀬、もう帰んの?」
清瀬 集は階段で下の階に降りる途中で友人に声をかけられた。
「うん、部活禁止だからさ。勉強よりバスケしてたいけど」
清瀬は眉尻を下げながら笑って言った。
「確かに。テスト面倒くせーよな。なぁ久しぶりに一緒に帰ろうぜ!」
「あぁいいよ」
そう言って友人と並んで一階に降りかけた時だった。
「待ってよ!進ちゃーん」
明るく良く通る声がした。
そして、その声に答えたのは清瀬のよく知る人物だった。
「何だよ、お前図書室嫌なんだろ」
進が不満そうな顔をしてその声の人物の前を歩いていた。
進の歩く方向の先には図書室がある。
「わざわざ静かな図書室で勉強しなくてもいいじゃん、俺ん家でやろーよ」
「静かなところじゃなきゃ勉強出来ないだろ、五月は嫌なら帰って家でやれよ」
「本当進ちゃん可愛くないなー、一緒に勉強しよっていってんじゃん」
「じゃぁ図書室来いよ」
「あー、はいはい。わかりました!じゃぁ今日は図書室ね」
そう言いながら五月と呼ばれた人物はヘラヘラと笑いながら進の後をついて行った。
進だった。
去年の今頃は毎日のように隣にいた進。
名前を呼ぶのも呼ばれるのも苦手だと言っていた進が、嫌いだと言っていた『進ちゃん』という呼び方に応えていた。
一緒にいたのは誰だ?
知らない人物だ。
進のクラスとは離れているから、同級生とは言え知らないやつはたくさんいる。
しかし進と仲の良い人物はだいたい把握していた。
でも、今のやつは知らない。
「あいつ誰か知ってる?」
「へ?どいつ?」
声をかけられた友人はキョロキョロと周りを見渡した。
思わず声に出てしまったが、その時には二人の姿はすでになかった。
「いや、ごめん・・なんでもない」
清瀬はそう言うと、友人とたわいない会話をしながら昇降口へ向かって歩いた。
しかし、頭の中は先ほど見た光景のことでいっぱいだった。
進が自分以外の誰かと名前を呼びあって親しそうにしていた。
自分といる時に見せてくれた可愛いげのない態度。
いつもそれが可愛いと思っていた。
あの時、自分の横にいた進が今は別の人間の隣ににいる。
清瀬は自分の胸がジリリとザワつくのを感じた。
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