5 / 26

第3話 こころづく③

「進ちゃんー!」 用紙を担任に提出し石橋とは職員室の前で別れた。 五月は下駄箱の前にいた。 「遅くなってごめん、どこにいた?」 「最初は軽音楽部に邪魔しにいって演奏聞いて、その後は図書室。雑誌読んでたわ」 「まじか・・すごい時間潰させたな。先に帰ってても良かったのに・・」 「えー。いや、久々にさ、進ちゃんを家に誘おうと思って?今日親遅くて暇なんだよね」 「え・・」 進はドキリとした。 あの日から、何もしていない。 この誘いもどういう意味で言ってるのか、五月の表情では読みとれない。 進は靴を履き替えると無言で校門の方へと歩き始めた。 すると五月は察したのか進の肩に手を回してきた。 「進ちゃん、期待してるっしょ!?」 五月はニヤニヤ笑いながら言った。 「ば!俺は別に!!」 「いいよいいよー。好きなことしようぜ。好きなこと、てか気持ちいいこと?」 「大きな声で言うなよ!!」 五月があまりにもふざけてからかうので進は真っ赤になって叫んだ。 その時、ピィーと高い笛の音がした。 「走り終わった人から部室前行って。そこで水分補給するように」 校門前で指示を出していたのは清瀬だった。 しまった・・ 金曜日はバスケ部の外練習の日だった。 部活を辞めてからこんな時間まで学校に残ってることもなかったので、すっかり忘れていた。 進は校門を通ることを躊躇した。 別の所から出られないだろうか・・ しかし進が一瞬迷っている間に清瀬が進達の方へくるりと振り返った。 そして進と五月がいることに気がついた。 清瀬と目があった進は、とっさに肩に回った五月の手を振り払った。 「おわ!どうしたんだよ進ちゃん?」 五月は勢いよく振り払われて驚きの声を上げる。 すると外を走り終えて戻ってきた他の部員達が進に気づき集まってきた。 「あれ、鵜飼じゃん」 「本当だ、久しぶりに見たな」 「部活辞めて遊びまくってんのかー?」 昔のチームメイト達が進を囲うようにして話しかけてきた。 「あぁ、まぁ・・」 進は気まずくなって下を向いた。 その時だった。 「ほら、無駄話禁止。一年待ってるから早く戻って」 清瀬は進を囲う輪の中に入ると、部室の方を指して言った。 「はぁい」 「了解〜」 「じゃあな〜鵜飼」 清瀬の一声で、他の部員達はゾロゾロと去っていく。 清瀬の指示でみんなしっかり動いてる。 ちゃんと部長やってるんだな。 自分が辞めたことに意味はあった。 進はそう思った。 そしてこの場を解散してくれた清瀬に礼を言わなくてはと思った。 しかし進が声を発する前に、五月が進の腕を引っ張って言った。 「進ちゃん早く帰ろう」 「え・・」 「ほら、遅くなるよ」 心なしか五月の声は冷たい。 「あぁ、えと・・じゃぁ・・」 進は清瀬への上手い言葉が出てこず、それだけ言うと清瀬の横を通り抜けて行った。 清瀬は何も言わずそこに立っていた。 その時ふと、五月は清瀬から鋭い視線を感じた。 あいつ・・? 五月は横目でチラリと清瀬の顔を見たがすぐに目を逸らされた。 帰り道、無言で俯き加減に歩く進を見て五月は聞いた。 「さっきの感じだとさ、進ちゃん部活円満に辞めた感じじゃないね」 「・・・」 進は黙ったままだった。 「何で辞めたの?」 「・・何でって・・」 本当のことは言えない。 「去年の二学期の終わりくらいから、めんどくさくなって冬休みの練習全部サボっちゃったんだよ。それで、そのまま気まずいから三学期入ってすぐに退部した」 「は?まじで?」 五月は今までに見せたこともないような険しい顔つきで進を見た。 進はその冷ややかな五月の視線が恐くなり、咄嗟に目を逸らしてしまった。 「本当の本当に?そんなつまんねー理由でバスケ辞めたの?」 「・・あぁ、つまんない理由だよ・・」 「はっ、まじかよ。何それ・・」 五月は見るからに機嫌が悪くなった。 なんだ・・急にどうしたんだ・・ 進は不安になりこの場から逃げ出したくなった。 「俺、今日は帰るわ」 そう言うと進は五月に背をむけて歩き始めた。 しかし五月はそんな進の腕をグイッと掴んで言った。 「いやいや、家来るって言ったっしょ。帰さねーよ」 「・・・」 五月からは明らかに今までの明るさが消えている。 不機嫌になっているのはわかるが、その原因が何かは進には皆目見当がつかない。 五月は無言のままグイグイと進の腕を引っ張って歩いた。 こんな五月は初めてで、進はどうしていいか分からずただ黙って五月の後をついて行くしかなかった。 電車に乗ってる間も五月は黙ったままだった。 進も話しかける気にはなれず、ただ流れていく車窓の風景を見ていた。 家に着くと五月は乱暴に進を部屋に連れ込んだ。 「いって・・」 五月はそのまま進をベッドに押し倒すと進の胸ぐらを掴んだ。 「進ちゃん、俺今怒ってるの、わかる?」 「わかってるに決まってんだろ・・・いきなりどうしたんだよ?」 進は睨みつけながら五月を見て言った。 なんでこんな乱暴なことをされなければいけないんだ? 進はそれが知りたかった。 「んー、ガッカリしたんだよね、お前に」 五月も進を睨み返した。 「部活辞めた理由、さっきのが本当に本当の理由?」 「・・・」 進はどう答えるべきか考えたが、良い言い訳が出てこない。 進がジッと黙ったままでいると、突然五月が「チッ」と小さく舌打ちをして進のスラックスのチャックを下ろし始めた。 「ちょっ・・お前何してんだよ?!」 進は驚いて五月の手を掴んだ。 「進ちゃん、俺、この間は聞けなかったけど、ずっと気になってたことがあるんだ」 五月はそう言うと、スラックスの布越しに進が五月を受け入れた箇所を触った。 「ここ、使うの初めてじゃなかったでしょ?」 「え・・」 「反応がね、初めてって感じじゃなかった。抵抗もなくて。むしろ慣れてそうだった・・」 進はカッと顔が熱くなった。  その反応を見て五月は言った。 「やっぱなー。ふーん・・そっかぁ。進ちゃん、やりまくってたんだ」 五月の声はゾクリとするほど冷たかった。 「もしかして、部活辞めたのもこっち関係?いろんな奴と寝て揉めちゃったとか?」 「なっ、ちげーよ!!」 進は悔しくなって叫んだ。 「どうだか。さっきの、校門のとこにいた奴なんて、お前のことめちゃくちゃ見てなかった?普通の感じしなかったけど?」 進は顔を真っ赤にしながら首を横にふった。 「はっ、言わなくったってわかんだからな」 そう言うと五月は強引に進の下半身の衣服を全て脱がせ進をうつぶせにした。 「!?」 進は突然のことで声が出ない。 そして五月は慣らすことをほとんどせず、強引に進の中に入ってきた。 「や・・やめ・・ろ・・」 進は痛さに耐えながら、五月をなんとか押し退けようとした。 しかし上にのしかかられた五月の体はびくともしない。 五月は黙ったまま進の腰を強く掴むと自身の腰を激しく打ちつけてきた。 五月の荒い息遣いだけが進の耳元をかすめる。 「・・あっ・・」 進は堪えられず声を漏らした。 五月・・なんで・・ 初めてセックスした時の優しかった五月はどこにいったんだよ・・ 進の感情は悔しさと恐怖と快感でぐちゃぐちゃだった。 五月が進の中で果てた後、進も無理矢理イカされた。 その行為からも五月の優しさはまったく感じられなかった。 進はうつ伏せのまま布団に顔を埋ずめ、堪えていた涙を静かにぬぐった。 「俺、帰る・・」 進はそう言うとヨロヨロと体をあげて脱がされた衣服を手繰り寄せた。 すると、五月は一呼吸してから、勢いよく頭を下げた。 「ごめん!!俺、こんなに無理やりやるつもりなかったのに・・」 「・・なかったのに?」 進は五月をチラリと見ながらスラックスを履き直した。 「進ちゃんがやっぱり初めてじゃないって分かってムカついた・・それに進ちゃんの部活辞めた理由にもすごい・・イライラしちゃって・・」 「・・・なんで?俺がどう部活辞めようと五月には関係ないだろ」 進がそう言うと、五月は机の引き出しを開けて一枚の写真を出してきた。 それはどこかのスポーツチームの集合写真だった。 「・・俺もさ、前の学校でバスケ部入ってたんだよね」 「え?」 進は驚いた。 しかし、納得もした。 そうだったのか。 だからあんなにバスケが上手かったのか。 「なんで今やってないんだ?」 「肩、痛めたから」 「肩・・」 「そ、もうね、部活続けるのは無理だって。普通に生活したりは問題ないけど、長時間の運動はキツイんだよな」 決して楽しい話ではないのに、五月はそう言って笑った。 おそらく暗く話すことは五月の性分に合わないのだろう。 しかし、進はかける言葉が見つからずただ黙っていた。 「これでもバスケ一筋でやってきたんだよね、なのにさ、いきなり終わったわけ。去年の夏前だったかな〜新人戦前だよ?先輩の試合見に行って終わり。なんのために高校でバスケ部入ったんだろって自暴自棄にもなったよね。まぁ、周りには悟られたくなくて平気なふりしてたけどさ」 五月は手に持った写真を見ながら言った。 おそらくその写真は中学生の頃のもの、一番輝いていた時のチーム写真だろう。 「だからさ・・進ちゃんの辞めた理由聞いてイラッとしたわけ。くだらねーって。まだやれるくせにズルいなって」 「・・ごめん」 進は自分が本当に情けなく感じて頭を下げた。 五月にそんな理由があったなんて・・ 呆れられるのも当たり前だ。 「別に、進ちゃんが謝ることない。俺が勝手にイライラしただけだし。それに、結局辞める理由なんて人それぞれだしさ・・」 「いや、実際くだらない理由で辞めたのは確かだ」 進はかぶりを振った。 そう、くだらない。 恋愛で頭がいっぱいになって、周りが見えなくなって、大好きだったバスケを捨てた。 「そのくだらない理由、教えてくんないの?」 五月はニコリとしながら進の顔を覗き込んで聞いた。 もう先ほどまでの冷たい視線は完全に消えている。 「くだらなさすぎて言えない。でも、五月にイラッとされて、少し楽になったかも」 「え?」 「自分で自分のこと怒れてなかったから。くだらないって言われてやっぱそうだよなって思った」 「・・なんだそりゃ」 「もう同じ間違いは絶対しないよ。あの時みたいなことには二度とならない・・」 そう、二度と。 あんな周りが見えなくなるような恋はしない。 最初からそういう感情は必要ないと思っていればいい。 五月とだって・・

ともだちにシェアしよう!