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第4話 文化祭の前②

運動部の係り決めは早々に終わった。 部活を抜けてきた者ばかりなので、皆クジを引き終わるとそれぞれ足早に戻っていく。 進は少しホッとした。 やはり清瀬と同じ空間にいるのは緊張する。 それから委員会の会議は二時間ほどかかった。 前日の設営準備は思ったよりも大変そうだ。 分担は看板や横断幕などの設置は男子、校内清掃や備品の準備などは女子となった。 会議が終わると石橋とはその場で別れの挨拶をした。 クラスの準備はもう六時を過ぎてるので終わっている。 進が帰る準備をしていると後ろから五月が声をかけてきた。 「進ちゃん一緒に帰れる?」 「あぁ、うん。今日はもうクラス戻らないから。そっちは?」 「うちも居残り届け出してないから今日は終わってる!」 進と五月が多目的室を出ると、すっかり日は落ちて暗くなっていた。 グラウンドで練習していたサッカー部が片付けの準備をしている。 下駄箱についた時、五月が鞄を探りながら言った。 「あ、やべ、俺教室に定期忘れてきてるかも。ちょっと見てくるわ」 「わかった、ここで待ってる」 進が答えると五月は階段を駆けあがって行った。 進は靴に履き替え下駄箱にもたれ掛かかると、スマホをぼんやりと眺めながら五月を待つことにした。 こうやって一緒に帰ることにもすっかり慣れた。 傍から見れば五月と自分は親友のように見えるかもしれない。 なんの問題もない、普通の親友に・・ そんな事を考えていると、誰かが来る気配がした。 スマホから目を上げると体育館からゾロゾロと数人が歩いてくる。 あれは・・バスケ部だ。 まずい・・ 進は慌ててどこかに隠れようとした。 しかし突然の事だったので、二年の下駄箱の裏側にある三年の下駄箱に回るくらいしか出来なかった。 進は元チームメイト達が靴を履き替えている裏側で、グッと息を飲んで自分の気配を消した。 「文化祭何の係になったんだっけ?」 「今年は迷子案内係だってさ」 「お!楽そうじゃない?」 バスケ部の楽しそうな話し声が聞こえてくる。 「去年は清掃係だったよな。あれ結構面倒くさかったわー。汚いしさぁ」 「あぁ懐かしいー!」 「去年さ、清瀬、鵜飼とサボってたろ?」 いきなり自分の名前が出て進はドキリとした。 「そうだったっけ?1年前のことだし覚えてないな」 サラっと答える清瀬の声がした。 「サボってたよ!二人とも姿が見えないって先輩が怒ってたろ」 「あぁ、そうだったかも。たしか疲れちゃって空き教室でちょっと昼寝してたんだ」 清瀬が笑いながら答える。 「あの頃、清瀬と鵜飼めっちゃ仲良かったよな。鵜飼のサボりぐせの悪影響受けてたんじゃねーの」 進は心がズンと重くなるのを感じた。 自業自得だがやはりそう思われているのか。 「別にそういう訳じゃ・・」 清瀬の声も少しトーンが暗くなった。 「まぁ、辞めたからもういいけどさ。清瀬あんなに仲良かったのに相談もなしだったんだろ?」 「実際怒ってねーの?」 元チームメイトたちが自分の話をしている。 しかし内容は良いものではない。 進はこれ以上聞く気になれず、その場を離れられないか考えた。 三年の下駄箱からなるべく物音を立てずに外に出て、すぐ左に曲がれば自転車置き場だ。 校門を目指すとまっすぐ行かなくていけないため気付かれてしまうかもしれない。 進はとりあえず自転車置き場に隠れることに決めて、静かに外に出ようとした。 その時。 「怒ってない」 ハッキリと答える清瀬の声が聞こえてきた。 「何か訳があったんだろ、鵜飼は本当にバスケ好きだったの知ってるし。俺は鵜飼が戻ってくるって言ってきてくれたら嬉しいよ」 その言葉に進は胸を掴まれる気持ちになった。 清瀬が自分のことをかばってくれている・・ しかしこれ以上何かを聞くのは怖い。 進はゆっくりと物音を立てないように、そっと外へ出た。 進が外へ出たタイミングで、五月が入れ替わりのように下駄箱へ戻ってきた。 「お待たせ・・って、あれ?」 そこには進の姿はなく、代わりに数人の男子生徒がいた。 そしてその中に先ほど見た顔がある。 清瀬・・ こいつらバスケ部か・・ てことは進ちゃんどこかに隠れたのか?? 五月はとりあえず靴を履き替えることにした。 バスケ部達は皆ちょうど外へ出ようとしていた。 しかし、一人五月をジッと見つめている人物がいる。 清瀬だ。 五月はその視線に少しの苛立ちを感じ、自分から声をかけた。 「何?」 「・・今日は進と帰られないの?」 清瀬は表情を変えることなく聞いてきた。 「帰るよ、進ちゃんどっかで待ってると思うけど」 五月はぶっきらぼうに答える。 「そう・・」 清瀬はそれだけ言うと、踵を返し先に外に出ていたバスケ部のもとへ小走りでかけていった。 わざとだ。 五月はそう感じた。 わざと、『進』と名前を呼んでみせた。 進が名前で呼ばれる事を嫌がってるのを知っている前提で。 やっぱりあいつ・・ 五月は少し遅れて外へ出た。 進がどこかにいるはずだ。 スマホを確認すると『自転車置き場』と連絡が入っている。 下駄箱を出てすぐ左に曲がった所にある自転車置き場に行くと、進は陰に隠れた場所で気まずそうな顔をしていた。 「勝手にごめん。ちょっと・・居づらくて」 「知ってる、バスケ部がいたよ」 「・・・うん、ごめん」 五月は先ほどの清瀬の顔を思い出していた。 「・・進ちゃん、あのさ」 「なに?」 「・・・」 五月は進に清瀬の事を聞こうとした、しかし躊躇った。 聞くのが少し怖かった。 「これから家こない?今日も親遅いし」 「え・・あぁ、うん、いいけど・・」 進は少し戸惑いながらも返事をした。 五月は自分の部屋に入ると、進を後ろからしっかりと抱き締めた。 「なんだよ、どうした?」 進は照れ隠しでふざけるように聞いた。 「この間のこと、上書きしたいんだけど。乱暴にやったこと忘れてほしい・・優しくするからしていい?」 「・・別にいいけど」 進は耳元から聞こえる五月の真剣な声に胸が締め付けられるようだった。 五月、気にしてたのか。 いつものヘラヘラとした軽い雰囲気ではない五月は少し緊張する。 五月は宣言通り、進の首元から優しく丁寧に愛撫していった。 首筋を唇の先だけでなぞるようにキスをする。 「・・っつ」 進はくすぐったさと焦ったさで抑えられず声が出た。 「五月・・もう、そこはいいから」 進は五月の方を振り向くと、目元をキッと上げながらもどこか強請るような視線を向けた。 五月はその熱を持った進の瞳に思わず気持ちを押されそうになったが、グッと堪えた。 今日は優しく抱こうと決めている。 五月は進をゆっくりベッドへ仰向けに寝かせると、一つずつボタンを外していった。 進の唇に静かに自分の唇を重ねると、空いた手で少しずつ進の身体の気持ちの良いところを探っていく。 敏感なところに触れられると、進は体をビクッと引きつかせ、顔を真っ赤にしながら小さな息を吐いた。 感じている進を見て五月は安心した。 この間は、そんな余裕もなくただ自分の怒りと嫉妬心で進を抱いてしまった。 進を初めて抱いた別の『誰か』がいる。 それが悔しかった。 そのことを思い出した瞬間、チラリと清瀬の顔が浮かんだ。 五月はその顔を消すためギュッと目を瞑る。 今は考えない。 今、進を抱いているのは自分なのだから。 「進ちゃん、挿れるね・・」 五月がそう言うと、進は漏れるような熱い呼吸を一つし、コクリと頷いた。 五月は進の太腿を持ち上げ丁寧に解した進のそこに、自分のものをゆっくりと埋めていく。 「あっ・・う・・」 進は目を瞑りながら、自分を貫く熱にただ身を悶えさせた。 最初こそゆっくりだった五月の動きは、興奮とともに激しくなっていく。 「あ・・や、やだ・・まって」 「ん・・進ちゃん」 五月の額にはじんわりと汗が浮かんでいる。 進は湿った五月の背中に両腕を回し、ギュッとしがみついた。 五月の動きに合わせ進の身体も激しく揺さぶられる。 進は五月の与える快感を全身で受け止めながら、五月が自分の中でイクのと同時に自身の昂った熱を弾けさせた。 「進ちゃん・・一緒にいけたね」 五月が熱い息を弾ませながら笑って言った。 「・・うん」 進はボンヤリと五月を見つめながら答えた。 その後、五月は丁寧に進の体を拭いてくれた。 進は恥ずかしくなって止めようとしたが、五月は笑いながらそれをはぐらかした。 進はそんな五月の笑顔を見て、あらためて思った。 五月は明るくて居心地がいい。 このままの関係でいたい。 このまま、普通ではないけど、でも、特別ではない友達のまま。 でもそれでいいのだろうか。 俺はまた何か間違えていないだろうか・・・

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