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第5話 五月の過去①
初めてその存在に気付いたのは小学五年生の時。
ミニバスの試合でだった。
「乾、こっち!」
五月は試合会場の体育館に到着すると、友人に遠くから声をかけられた。
今日はミニバスの地区大会で、次の対戦相手の試合を見学することになっている。
コウジ小学校とオカヤマ小学校の試合、勝った方が次の対戦相手だ。
しかし、きっとコウジ小が勝つだろうと皆思っていた。
五月もその一人だ。
コウジ小は同じ地区の中でも強豪校の一つである。
対戦相手のオカヤマ小は名前は知ってるが今まで試合であたったことがない。
大会でも初戦敗退が多く戦う機会が今までなかったのだ。
五月達は体育館の二階にあるギャラリーから見学していた。
下では両小学校の選手がウォーミングアップをしている。
五月は肘をついて何気なく見ていたが、ふとオカヤマ小の生徒が目に留まった。
背が低いその人物は、小さな体を手が伸びる限界まで思い切り動かしている。
「小さいなぁ、何年生だろ?」
五月はちょこまかと動くその姿を微笑ましそうに眺めていた。
しかし、試合が始まってみると五月は彼の動きに魅せられた。
小さな体を機敏に動かし隙を見つけてボールを回す。
パスのセンスがあるのだ。
全体の実力はやはりコウジ小の方が上だが、彼のプレイはこの試合で誰よりも輝いて見えた。
「なぁ、あのちっちゃいの、何年生かな?」
五月は隣にいた友人に聞いてみた。
「さあ?でもスタメンみたいだし五年か六年じゃない?」
友人の言葉を聞いて、たしかにそうかもなと五月は思った。
そして同じ学年ならいいのになと心で思った。
ピピー!
終了のホイッスルが体育館に響き渡る。
試合はコウジ小の勝利となった。
小さな彼は額に流れる汗をぬぐいながら悔しそうな顔をしている。
選手達は一列に並びお辞儀をすると、それぞれの場所へ戻っていった。
「進ちゃんお疲れ~」
チームメイトが彼に駆け寄り話しかけている。
「ふーん、しんちゃんって言うのか」
五月はその様子を見ていた。
「乾~帰るぞー」
「おー」
仲間に呼ばれ五月は玄関に向かった。
しんちゃん、なんとなく印象に残る奴だったな・・
その日からまた、五月の日々はいつも通りの毎日だった。
なんとなく進のことは頭の片隅に残っていたが、その程度の存在だった。
そしてその後、オカヤマ小と試合をすることも、大会で会うこともなく五月は小学校の卒業を迎えた。
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