13 / 26

第6話 文化祭一日目②

見回りの当番が終わった後、進と五月はそれぞれクラスの様子を見に行き、その後体育館で待ち合わせた。 ちょうど軽音楽部の演奏が始まる時間だ。 五月はちょくちょく軽音楽部に顔を出しているらしくメンバーと仲が良い。 体育館に並べられたパイプ椅子の一番後ろに二人で座った。 「進ちゃん、この歌知ってる?」 五月が小さな声で聞いてきた。 今軽音楽部が演奏しているのは、メジャーなバンドのポップで明るい曲だ。 ただ進は聞いたことがある程度で、歌詞の内容などは気にも止めたことがなかった。 「知ってるけど、ちゃんと最初から聞くのは初めてかも・・」 「そっか。俺この歌すごい好きで、これ演奏して欲しいって軽音楽部の友達に頼んだんだよね」 「・・まじか。お前部員じゃないのに図々しいな・・」 「みんな快くオッケーしてくれたよ!部内でも人気あるんだってこの歌!」 「ふーん・・」 「この歌聞いてると、進ちゃん思い出す」 「はい??」 「・・なんてね」 五月がそんな風に思わせ振りに言うものだから、進はどんな歌詞だろうと真剣に聞くことにした。 でも、その歌は明るい曲調とは裏腹に別れを思わせる内容だった。 別れても頑張って生きていく、そんな内容だ。 この歌詞を聞いて俺を思い出す? 進は先程の五月の『話がある』という言葉がますます不安になった。 暗い体育館で五月と肩を並べなから、明るい別れの歌を聞く。 この瞬間はいつか、良い思い出になるのだろうか・・そんなことを進は考えていた。 その後プラプラと他のクラスの模擬店を回り、一日目は無事に終わった。 進は家に帰ってから、改めて今日軽音楽部が演奏していた歌を聞いてみた。 その歌の歌詞はまるで物語のようで、その情景が浮かぶようだった。 五月はこういうのが好きなのか。 なんか意外・・ 五月と仲良くなって、まだほんの数ヶ月だ。俺はあいつの何を知っているのだろう。 そう言えば、転校してきた理由・・ 一体五月はこの学校で何がしたかったのだろうか。 明日、聞いてみようかな。 もう少し、五月のことをちゃんと知りたい。 五月からの話がある前に、聞けたら聞いてみよう。 その後もし、この歌のように別れの話になったとしても・・ 進はゴロンとベッドに寝転び目をつむった。 進はその夜、初めてそのバンドの様々な曲聞きながら眠りについた。

ともだちにシェアしよう!