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第7話 文化祭二日目②
校内は雨で湿度が高い。
進も五月も少し汗ばみながら校内を回った。
二人で二階の廊下をせっせと拭いているときだった。
「あ、文化祭委員!」
少し離れた場所の後方から突然声をかけられた。
振り向くと、そこには小さな男の子を連れた二人の男子生徒が立っている。
そして二人とも進のよく知る人物だった。
「て、あれ?鵜飼じゃん?何~お前文化祭委員やってんの?お前そういうのやる奴だったか?な、清瀬?」
元部活仲間の滝口が少しニヤリとしながら清瀬に話を振った。
「えらいじゃん、お疲れ様、鵜飼」
しかし清瀬はそんな滝口の顔は見ずにニコリと笑って言った。
進が清瀬と会うのは、あの前日準備の時以来だ。
進は少し気まずい気持ちになりながら、小さく頷いた。
すると清瀬が連れてる男の子の肩をポンと優しく叩いて言った。
「この子、迷子みたいなんだ。だから今から職員室に連れていこうと思ってるんだけど、迷子アナウンスってそっちで頼めるんだっけ?」
「あ、あぁ、それなら俺から放送委員に頼みに行ってくるよ・・!」
進は早くこの場から去りたかった。
「悪い、五月。モップ持ってて。伝え終わったらすぐ戻ってくるからこの辺掃除しててよ」
進はそう言うと、持っていたモップを五月に押し付けるように渡して、放送室のある方へと急ぎ足で歩いていった。
「え、ちょっと進ちゃん!!」
五月は進を呼び止めようとしたが、進は聞こえないふりをしてその場から離れていった。
廊下の階段まできて、進はふと清瀬と五月を残してきて大丈夫だったか気になった。
五月が、何か変なこと言ってないといいけど・・
あいつ、調子良いからな・・
そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。
「進!」
進は驚いて振り向いた。そこには清瀬が一人で立っていた。
「えっ・・なんでいるの?さっきの子は?」
「あの子は滝口に頼んできたよ。それより進、あの子の名前や年齢とか聞かずに行っちゃうから、追いかけてきた」
「あっ・・!そうか・・」
うっかりしていた。
確かに迷子放送をかけるには、その子の名前や特徴などが必要になる。
「聞いてメモしてきたよ。あと服装とか誰と来てるかも」
そう言って清瀬は小さな紙切れを進に差し出した。
「あ、悪い・・ありがとう」
進はその紙切れを受け取りながら、清瀬の顔を見た。
清瀬は穏やかに笑っている。
「進って結構ぬけてるよね」
そう言ってクスクスと清瀬が笑う。
「べ、別に!焦って忘れただけだよ」
進は真っ赤になって言った。
なんだかそのやり取りが懐かしかった。
「そうやってムキになるところ、変わらない」
清瀬も同じような気持ちになっているのだろうか。優しく微笑む清瀬を進は見つめた。
でも・・ダメだ。
もうもとには戻らない。
「じゃぁ、俺、行くから」
そう言って、進は階段を下に降りようと向きを変えた。
その時だった。
「ヤバい!ヤバい!早くしないと売り切れるって~」
「待って、待ってよー!」
上から来た女子生徒達の集団が進のギリギリ側を駆け降りてきた。
その勢いに進は足を取られた。
先程から濡れた廊下を拭いて回っていた上履きは、普段よりも滑りやすくなっている。
進は階段ギリギリでバランスを崩した。
あ、ヤバい・・
頭の中でそう呟く余裕があった。
でも、体の反応は追い付かない。
落ちる・・!!
・・・!!
一瞬のことだった。
進は体のバランスを崩したまま、階段下へと落ちていった。
でも・・
誰かが腕を掴んでくれた。それにより、下に落ちる勢いは小さくなった。
ふと、床に寝転がった状態で横を見る。
そこには、清瀬が同じように床に寝転がっていた。
「・・え、清瀬?」
「いってぇ・・進大丈夫?」
清瀬は痛そうに片眉を歪ませてはいるが、笑いながら聞いてきた。
「進の腕掴んで止めようとしたんだけど、無理だった・・ごめん・・」
清瀬は本当に申し訳なさそうに言った。
進は慌てて起き上がると、清瀬の体の状態を見た。
「な、何言ってんだよ?!悪いのは俺なのに・・清瀬大丈夫か?どこが痛いんだ?!」
清瀬もゆっくり起き上がろうとしたが、足を動かすと体がビクッとひきつった。
「あぁ・・足、ちょっと痛いかも・・」
「え・・足?」
進は冷や汗をかいた。清瀬に怪我をさせてしまった。俺のせいで・・
その時
「おい?!大丈夫か?」
五月が階段上から駆け降りてくるのが見えた。
「すごい音したからどうしたのかと思ったら・・お前ら階段から落ちたのか?」
五月は二人のもとへ駆け寄ると、進と清瀬を心配そうに見つめた。
「・・悪い、五月。このメモ、放送室に届けてもらえるか?俺、清瀬を保健室に連れていくから」
進はそう言うと、五月に先程のメモを渡した。
「え・・でも進ちゃんもどっか怪我してるんじゃ・・」
「俺は大丈夫。清瀬が助けてくれたから・・上手く落ちたみたいで無傷・・」
進はそう言うと、清瀬の腕を優しく掴んで言った。
「清瀬、立てるか?」
廊下に座り込んだままの状態だった清瀬はコクンと頷くと、ゆっくり片足ずつ立ち上がった。
しかし右足が痛いのか、右側に重心がかかると顔を歪ませた。
「清瀬、肩、掴まって」
進は清瀬に肩を差し出した。
清瀬はゆっくり右足に重心がからないよう、進の肩に掴まった。
「進、大丈夫?重くない?」
「大丈夫だよ、全然平気。ゆっくり歩くから速かったら言って」
「ありがとう・・」
「じゃぁ、五月、頼む。ごめん・・」
進はそう言うとゆっくり清瀬の腰に手を回し、サポートするように歩き出した。
五月は渡されたメモを片手に二人が見えなくなるまでその背中を見送った。
ちゃんとした状況はわからない。
でも恐らく、清瀬は進ちゃんをかばって怪我をした・・
五月は心に小さな不安を感じた。
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