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第7話 文化祭二日目④
進と清瀬は飲み物を売ってるクラスでペットボトルのジュースを二本購入した。
支払いは進がした。
清瀬は遠慮したが進は頑なに譲らなかった。
二人はペットボトルを片手に休めるところを探して歩いた。
あまり人に聞かれたくない話になると思い、人気のないところはないかと進は思った。
清瀬はまだ右足を少し引きずって歩いている。
「足、大丈夫か?早くどこか休めるところ探そう」
「だいぶ痛みも引いてきたら大丈夫だよ。それより進は委員会は平気?」
「あぁ、もう係りの時間は終わった。さっき五月からモップは返しておくってライン入ってたし大丈夫」
「・・そう」
清瀬は五月の名前が出たことに少しの苛立ちを感じた。
その時、清瀬はある場所を見つけた。
「進、こっち」
「え?」
清瀬は進の腕をグイッと引っ張ると、賑わっている廊下の角を曲がり人気のない方へ向かった。
使われていない空き教室が並んでいる廊下だ。
そこは去年、清瀬が進を抱いたあの教室がある場所だった。
「あ・・」
進もその事に気づき、思わず声が出た。
「ここなら、人が来ないことは確認済みでしょ」
清瀬はニコリと笑って言うと静かに教室の扉を開けて入った。
去年と同じく、中はひっそりと暗く他のクラスから移動させた大量の机や椅子がならべられている。
「ここ、本当は入っちゃだめだよな・・」
進は少し躊躇った。
「少しだけならいいでしょ」
清瀬はそう言うと、椅子にゆっくりと腰掛け、ペットボトルのふたを開けた。
「進もほら、ここ座って」
清瀬の隣の席を促され、進もゆっくりと椅子に腰かけた。
それから清瀬と同じように、ペットボトルの蓋を開けてゴクリと一口ジュースを飲んだ。
何かしていないと落ち着かない気がした。
それから少しの間があって、清瀬が口を開いた。
「俺はね、進。なんで、進が俺から離れたのか知りたいんだ・・」
清瀬は進をまっすぐ見つめて言った。
「え・・」
進も同じように清瀬を見つめ返した。
「急にフラれて・・正直ムカついたし意味がわからないって思った。ずっと上手くいってると思ってたし、ずっとこれからも付き合っていけると思ってたから」
「・・・」
「進、俺何かした?」
清瀬の視線はとても真剣だった。
誤魔化してはいけない。
逃げてもいけない。
あの時の弱かった自分をちゃんと話さなくては・・
進は手にもっているペットボトルを強く握った。
そしてゆっくりと口を開いた。
「俺、すごく不安になったんだ・・」
「不安?」
清瀬は眉を歪ませて聞き返した。
「俺、進を不安にさせるようなことしてた?」
「違う・・」
進は頭を振った。
「俺が勝手に、悪い方に悪い方に考えてた。俺と清瀬がこれからも付き合い続けてメリットはあるのかって・・」
「メリット?」
「清瀬も、俺も、あの頃お互いに周りが見えてなかったろ。自分達の事ばかり考えてた。部活サボったりテスト勉強さぼったり・・」
「・・・」
「それで、このままじゃだめだって思うようになった。恋愛と、その他の事とうまく両立出来なくて、やり方もわからなくて。このままずっと一緒にいたらどんどんダメになっていくだけだって思って、お前から・・逃げた・・」
進は清瀬の顔を見て話していたが、少し気まずくなり下を向いた。
清瀬はしばし黙っていたがポツリと小さな声で言った。
「・・ごめん、俺のせいだな・・」
「え・・」
その言葉に進は顔を上げた。
「俺、あの頃進に夢中になってた。進と一緒にいることばかり考えてた。確かに周りが全然見えてなかったよ」
「・・」
「進にフラれて、進が部活辞めていなくなって。それで進の事考えないように部活や勉強に集中するようにしてたらさ、ある日先輩に言われた、やっともとに戻ったなって」
「もとに・・」
「それで俺も、あぁそう言えば進と付き合う前は俺はこんな感じだったなって思い出したんだ、部活や勉強、やるべき事はちゃんとやらなきゃって思う性格だったなって」
「・・うん、清瀬はそう言う奴だったよ。どんなことにも誠実に取り組む奴」
進は少し笑って清瀬に言った。
それが俺が好きになった清瀬だ。
清瀬も少し微笑んだ。
しかし再び真剣な瞳になって進を見つめると、進の手を取り優しく握った。
「清瀬?」
進はその手をどうしたらよいかわからず戸惑いの表情を見せた。
清瀬はジッと進を見つめながら言った。
「進、もう前みたいに周りが見えなくなるようなことはしない。だからもう一度付き合ってほしい」
「え・・」
「もう一度チャンスがほしい。進が俺を嫌いになって別れたんじゃないなら、もう一度やり直したい。今度は絶対に失敗しないから」
「・・清瀬」
進の手を握った清瀬の手のひらから熱い体温が伝わる。
そして清瀬の瞳からも・・
とても真剣で熱い眼差しだった。
もう一度、清瀬と付き合う・・
それは考えていなかった・・
もう元には戻れないと決めつけていたからだ。
上手くいくだろうか。
再び付き合ってまた同じようになったりしないだろうか。
この手をとってよいのだろうか。
でも、今でも清瀬が自分の事を真剣に想ってくれている気持ちは伝わってくる。
清瀬の気持ちは本物だ。
それに自分が応えられるかが問題だ。
自分も同じように前のような失敗をしないことが重要だ。
進が思考を巡らしていると、ふと五月の事が浮かんだ。
五月・・五月とはどうなるだろう?
でも・・五月とはただの性欲処理の関係だ。
それはお互いに割りきっている。
そして・・五月は何か話があると言っている。
あの歌の歌詞から推測される、おそらく別れの、この関係の解消についての話・・
・・・
進はゴクリと唾を飲んだ。
少し口が乾いている。
それから決心して口を開いた。
「うん・・」
進は小さな声で言った。
「もう一度、上手くいくか・・まだ不安だけど・・付き合ってみようか」
進の返事に清瀬は驚き、それから少し安堵の表情を見せた。
「本当に?本当にいいの?」
そう言って清瀬は握っていた進の手をさらに強く握った。
「うん・・」
進は笑って頷いた。
もう一度、やり直してみよう。
何を間違ったかわかっているから、大丈夫。きっと今度は間違えない。
五月も俺との関係の解消を言いづらそうにしていたから、これで安心するかもしれない。
ただの友達に戻っても大丈夫だと、そう思ってもらえるだろう。
なんて・・
俺は自分に都合のいい方に考えていた。
結局俺は最後まで五月に甘えていたのだ。
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