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第8話 やり直し①
ピピー。
高い笛の音が体育館に響く。
「はい、練習終わり!!みんなそれぞれ片付け始めて下さい」
清瀬は時刻が十八時を回ったのを確認して部員達に呼び掛けた。
夏の終わりに三年生が引退し、部長になって三ヶ月ほど。だいぶ板についてきたと思う。
一年生もやる気のある子が多く、この間行われた新人戦もまずまずの成績だった。
「清瀬、帰りなんか食って帰らねぇ?」
ロッカーで着替えていると、隣でシャツに腕を通しながら滝口が聞いてきた。
「ごめん、今日はちょっと寄るところあるんだ」
清瀬は微笑みながらも申し訳なさそうに答えた。
「ふーん、そっか。あ、一宮とデート?」
「違うよ・・」
今も、部活内では一宮と清瀬は付き合っていることになっている。
引退するまではこのままで通すつもりだ。
もともと部活以外でも行動を共にすることが多かったので、一宮と実際に付き合っている時も何かが変わったような気はあまりしなかった。
しかし、それも今思えば一宮が自分を好きでいてくれたから何かと誘われたり話しかけられる事が多かったのだろう。
自分でも驚くほどに鈍感だった。
進が部活を辞め、心に穴が開いたような気がしていた二年の春。
一宮に告白されるまで清瀬は自分に好意を寄せる女子がいるという事を考えもしなかった。
それほどまでに清瀬は進のことだけに夢中になっていた。
そして結局、今も清瀬の心を動かせるのは進だけだ。
自分から好きにならないと本気になれないタイプなのだと、清瀬は改めて思った。
部活仲間と駅で別れてから清瀬は駅から少し離れたファミレスへ向かった。
駅前にはいくつもファミレスやファストフードの店があり、学校帰りの学生達はだいたいそこに集まる。
そのため、他の生徒に会いたくない時は駅から離れた店を使う方が安全だ。
清瀬は店に入ると、壁寄りの奥まった席に一人で座る進を見つけて近づいた。
「進、お待たせ」
後ろから声をかけらた進は一瞬ビクッとしたが、清瀬の顔を見ると笑って答えた。
「全然待ってないよ、部活お疲れ清瀬」
清瀬は自分に向けられた進の笑顔に心が暖かくなるのを感じた。
ずっと、ずっと望んでいたもの。
それが今ここにある。
あの文化祭の日から、再び付き合うようになって一ヶ月弱。
放課後、週に1回はこうやって待ち合わせてご飯を食べて帰る約束をした。
部活仲間に見られないようにコッソリと会うようにしている。
『俺はバスケ部の奴らにはよく思われてないから、一緒にいるところを見られたら清瀬に迷惑かける』
進にそう言われたからだ。
清瀬からしたら、むしろ進への誤解を解きたいくらいだ。
しかし進はバスケ部の仲間と関わることをなるべく避けたいらしい。
そのため、無理強いはしないことにした。
清瀬にとって何より大切なことは進と再び一緒に居られるようになったという事だ。
下手なことをして、また進に距離を置かれてしまっては元も子もない。
「進、今度の休みどこか行く?」
清瀬はドリンクバーからとってきたメロンソーダを飲みながら進に聞いた。
「部活は?試合ないのか?」
進はオムライスを口に入れながら視線を清瀬に向けて聞く。
「うん。当分ないよ、この間新人戦終わったばかりだから」
清瀬もスプーンを手に持つと、いただきますのポーズをしてカレーを食べ始めながら答えた。
それから続けて言った。
「俺的には久しぶりにゆっくり出来るから、1日みっちり進と遊びたいな。付き合うようになってから、まだちゃんとデートしてないでしょ?」
「で・・デートって・・今更だろ・・」
進は照れ臭そうにしながらスプーンでオムライスをすくった。
「今更じゃないよ。俺は進ともっと近づきたい。いつもこのファミレスの机越しじゃ・・ね?」
そう言うと清瀬は微笑みを浮かべながらカレーを食べ進めた。
進はそんな清瀬を頬を少し赤らめながら見つめた。
節度ある付き合いを・・
それは二人が再び付き合うことになった時に決めた約束だ。
お互い夢中になり過ぎない。
他の事ともバランス良くやりながら付き合う。
何よりこの恋を最優先事項にしない。
そう決めて、今のところ週一のご飯だけに留まっている。
ちょうど清瀬の部活が新人戦に向けて忙しかったのもあった。
程よい距離感で付き合えている、進はそう思っていた。
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